逢魔時の黒猫
〜母と娘の手鏡〜 Short ver.
友里 夕焼けは、嫌い。
黒猫 『ニャー』
友里 猫も、嫌い。
黒猫 『ニャー…』
友里 でも、自分自身が、一番、嫌い。
黒猫 逢魔時(おうまがどき)、…それは、一日が終わろうとする夕暮れ時。
昼であって昼でなく、夜であって夜でなく、
二つの時が交わり歪みが生まれる時間……。
私が私となれるのも、この僅かな時間しかありません。
あとはもうひとつ、条件が揃えば、人の前に現れることができるのですがねぇ。
友里 あたしは毎月この日は絶対に、
公園のベンチに座ってこの時間を過ごしている。
何の為に…?
それはもう自分でもわからなかった。
里江子 『……ッッ!!! ゆりちゃん!!!!!!!!!』
友里 思い出す、母の声…。
記憶の彼方、忘れたくても忘れられない、うぅん、忘れちゃいけない声。
最近、写真の中の母にだんだん似てきたと言われるようになった。
鞄から母の形見の手鏡を出して、覗き込む。
……写真の中の母は優しく微笑んでいる。
でもあたしは………あたしの顔には何もナイ。
黒猫 「こんにちは」
友里 「っ!? あ、あなたいつのまに隣に座って……」
黒猫 「やだなぁ、ずっと座ってたじゃないですか」
友里 「えっ、だってさっきまで隣にいたのは……」
黒猫 「私がいたでしょう? ずっと……」
友里 「馬鹿言わないでよ、ここにいたのは黒猫……!」
黒猫 「そう。私は黒猫です。
あなたのおかげで、久々に人の姿になれました。
やっぱりこの姿はいいですね、人と会話もできますし」
友里 「何、言ってるの?」
黒猫 「猫のままだと、人ではないものとしか会話ができなくて。
それも楽しいっちゃ楽しいんですが、
たまには人と話したいじゃないですか」
友里 「頭おかしいんじゃないのあんた……」
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