環状線輪廻道
『環状線輪廻道』
登場人物
山羊
桜子(さくらこ・女)
一人、電車に揺られている桜子
彼女の他に、乗客は誰もいない
やがて、山羊がやってくる
桜子の隣に座る
山羊 また来たのかい、桜子ちゃん。
桜子 ええ、悪い?
山羊 いいや、そんなことはないよ。むしろね、僕は嬉しいんだよ。お喋り好きだから
さ、はは。
桜子 そんな感じよね。いつも楽しそうで、ホントむかつくわ。
山羊 あっ、ひどい。傷つくな。こう見えて、僕はとても繊細なんだよ、はは。
桜子 どうでもいい。ああもう、死にたい。
山羊 今日は、何があったの? 話してごらんよ。
桜子 別に、いつも通り。退屈で、クソみたいな一日よ。
山羊 そうなんだ。学校、つまらないの?
桜子 つまらないっていうか、気持ち悪い。
山羊 何が、気持ち悪いの?
桜子 全部。私のクラス、皆頭がおかしいのよ。
山羊 へえ。
桜子 笑い合ったり、ふざけあったり、恋の話に盛り上がったり。
山羊 それって、普通じゃないの?
桜子 普通じゃないわよ。皆、クラスというコミュニティから溢れないように必死な
の。自分を殺して、他人の顔色をうかがって、空気読みまくってさ。あそこじ
ゃ、誰も本当の自分で話したりなんかしてないの。恐ろしいでしょ? 狂ってる
わ。
山羊 桜子ちゃんは、違うんだ。
桜子 私もそうなれたら楽なのにね。
山羊 難しいねえ。思春期の悩みってやつかな、はは。
桜子 あ、それね。それ嫌いだからやめて。
山羊 えっ?
桜子 私の悩みを、そんな一般的な言葉で片づけんなって言ってんの。
山羊 これは失礼したね。悪かったよ、桜子ちゃん。
桜子 死ねばいいのに……。
ガタン、ゴトンと電車の揺れる音が聞こえる
山羊 桜子ちゃんは、皆より早く大人になっちゃったんじゃないかな。
桜子 何それ。
山羊 今どきの子で、そんな客観的に他人のこと見れている子って、なかなかいないと
思うよ。
桜子 「今どきの子」ね。随分、ふわっとしてるわ。
山羊 どう? そう思わない?
桜子 思うわよ。どいつもこいつも、皆ガキだから。精一杯、個性を発揮して、居場所
を作らないといけないのよね。一人はカッコ悪いから。でも浮いちゃうのは怖い
から、調子に乗るのは程々に。本当、ご苦労様。
山羊 すごいねえ、よく見えてるねえ。
桜子 その言い方、馬鹿にしてるでしょ。
山羊 そんなことないってば。僕はね、そんな桜子ちゃんが大好きなんだよ。桜子ちゃ
ん、ラブ。
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