処女の眠る墳
『処女(おとめ)の眠る墳(はか)』
はっとりおきな
【登場人物】
A(男)西屋真(にしやまこと)・稲城誠(いなぎまこと)(中学時代)
B(女)生田桜(いくたさくら)・女東左久良(めとうさくら)(中学時代)
C(男)女東悠(めとうゆう)・沼隈雄右(ぬまくまゆう)(中学時代)
(男)田中誠(旧姓稲城。女性婚により改名。老年期)
(女)女東左久良(老年期)
(男)沼隈雄右(老年期)
※この戯曲は、「登場人物の名前が共通している」「右記『・』で並列した
合計六役を、それぞれ任意の役者A、B、C合計三人で演じる」ことを
前提とした構成になっています。故にネタバレやいたずらに先入観を
持たれないよう、公演情報の公開には重々の配慮をお勧めします。
第零場
時は一九三八年(昭和十三年)、七月五日の昼。
場所は兵庫県、生田川周辺。
のちに「阪神大水害」と呼ばれる土砂災害の真っただ中。
風雨打ち付ける土石流の中にある、制服姿の中学生の姿。
なんとか立っている稲城誠、沼隈雄右、女東左久良。
稲城「俺は左久良が好きだ」
沼隈「……俺も左久良が好きだ。だから」
稲城「ああ。だから雄右。俺とお前は……敵同士だ」
沼隈「誠ォ……!」
左 「ねえ、やめてよ! 二人とも!」
互いに近づこうとする稲城と沼隈。左久良の叫びと共に轟音。土石流が三人の足場を大きく揺らし、沼隈が土砂の濁流へと飲み込まれていく。
左 「雄右ッ!!」
声もなく落ちた沼隈。酷く狼狽した様子で沼隈の名を呼び、駆けていく左久良。
立ち尽くしたままの稲城。
第一場
時は流れ、五十年後。
晴れた空の下、時はいよいよ夏。学校の一階廊下。
女東悠が単語帳を片手に現れる。その背後から単語帳をのぞき込む西屋真。
西屋「『関係』、だよ」
女東「うわっ。んだよ真。関係?」
西屋「?relation?、和訳すると『関係』。アクセントの位置気を付けてね」
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