ヒーローなんていなかった
   井上誠(いのうえまこと)……男子高校生。文芸部員。
   高坂彩音(こうさかあやね)…女子高校生。
   シシモト…男子高校生。文芸部部長。
   川端恭子(かわばたきょうこ)…先生。男にしてもいい。
   相沢翔(あいざわかける)…男子高校生。女装趣味。
   女A ……女子高生。シシモトのクラスメイト。兼任可能。
   女B ……女子高生。シシモトのクラスメイト。兼任可能。
   
    歌が流れ、幕があがる。
    寝っ転がってテレビを見ている井上。
    テレビを消すと音響もとまる。
   
井上「……退屈だ退屈だ退屈だ! この人生、おもしろいことなんてこれっぽちもありゃしない! 学校、家、学校、家、学校、家……ただただその繰り返し! つまらないつまらないつまらない! もっとこう、刺激的ななにか……そうたとえば、アニメみたいにある日突然美少女が降ってくるとか! 異世界に召還されちゃって、ドラマティックでファンタスティックな冒険を繰り広げたりとか! ……そんななにかがほしいよ。俺をこんな退屈な日常から救いだしてくれる、そんななにかが」
シシ「俺……かな?」
井上「えっ!? 誰!?」
シシ「俺? 俺は」
   
       場面転換。
   
井上「ここは文芸部室! いつもは他のやつらも呼んで麻雀したりトランプしたりしている、夢と希望にあふれた秘密の楽園だ! そんな文芸部室が、今日は珍しくもシシモトとこの俺、井上誠の二人っきり。なんだけど……」
シシ「うひょー! やっぱりゲームのBGMってテンションあがるよなぁ!」
井上「……ちょっとシシモトがうざい、そんな日だった」
シシ「あー、ここはあのシーンだわ。ボス戦前のさ」
井上「なあ、シシモトー、お前、まじで医学部受験やめるの?」
シシ「え〜。ああ、うん、まじ」
井上「へ〜。小説を書く片手間に医者をやるなんて頭おかしいこと、言ってたのに?」
シシ「もともと医者にそこまでなりたかったわけじゃないしさ」
井上「へえ、家は? 誰が継ぐの?」
シシ「妹か弟かな」
井上「よく親が許したな」
シシ「まあ、もともと、数学壊滅してたし、ちょうどよかったんだよ」
井上「へ〜」
シシ「……でも、もっと大変なのはここからなんだよ」
井上「え?」
シシ「母親が結婚しなかったら家から追い出すって! 俺、長男だよ!? それなのにぃ!? ひどくね?」
井上「あらら〜。お前言い返さなかったの?」
シシ「もちろん言い返したとも! 俺はもう、スズランちゃんと結婚してるーーー! だから三次元の女なんかに興味はねぇええええええ! ってさ」
井上「そしたら?」
シシ「殴られたよ」
井上「あらら」
シシ「だから俺は言ったのさ。殴ったね! 親父にもぶたれたことないのにって!」
井上「そしたら?」
シシ「親父に殴られた」
井上「ふっ、ざまぁねぇな」
シシ「な、ロマンがないよな。俺の親、そういうのわかってないんだよ」
井上「まあ、なかなか難しいわな。……で、医学部受験やめて、どうするの?」
シシ「ん〜。法学部にでも行こうかなって」
井上「法学部? なに? 弁護士にでもなるの?」
シシ「ああ〜。いいよなぁ〜弁護士。同窓会でさ、今なにやってんの? ってきかれたら、これって言って、バッチ見せびらかせるしな〜」
井上「そんな理由でなろうとしてるの?」
シシ「そんなもんだよ。……まあ、弁護士を目指してるわけじゃないんだけどさ」
井上「じゃあなんで法学部?」
シシ「俺、そういうの好きだし。それに、小説を書くヒントが手に入りそうじゃん?」
井上「お前ほんとに作家になりたいんだ」
シシ「そうだよ」
井上「投稿とかしてないのか?」
シシ「……お前、投稿して大賞とっちゃったらどうするんだよ? 作家活動しながらって、この学校ゆるしてくれなさそうじゃん」
井上「お前、どこからその自信来てるの?」
シシ「俺は天才型だから。塾の先生にも言われた」
井上「そいつ、目腐ってるんじゃねぇの?」
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