東京メランコリニスタ【vol.6】
持たざる者
 ある晴天の日。
 配信を開始する蜂須賀。

蜂須賀:はい、どーもォ、はっちゃんだよ。
蜂須賀:いやぁ本日も晴天なり。
蜂須賀:穏やかな昼下がり、皆さんいかがお過ごし?
蜂須賀:うん、わかる。フォロワー諸君の言いたいこと、めちゃくちゃわかるよ、俺。
蜂須賀:最近の「東メラ」つまんなくね?
蜂須賀:ファッションとか、ゲームとか、お得な街角情報とか……。
蜂須賀:求めてんのは、そんなんじゃねぇんだよ!
蜂須賀:俺らが求めてんのは、バチバチの刺激とリリィちゃん!
蜂須賀:中高生が喜びそうなネタに味しめて本質見失ってない?
蜂須賀:そんな日和(ひよ)っちまった「東メラ」なんている?
蜂須賀:いらねぇよなぁ!?
蜂須賀:そんなトコでしょ? お見通しなんだよねぇ。
蜂須賀:はいはい、お待たせしました!
蜂須賀:いきなりお前ら好みの展開だ!
蜂須賀:ほら、見てよ。絶体絶命、俺!
蜂須賀:東京メランコリニスタ・ボリューム40。
蜂須賀:「蜂須賀(はちすか)、死す」。
蜂須賀:デュエルスタンバイッ!
犀川:……オイ。
蜂須賀:はい、何でしょう?
犀川:相変わらずだなぁ、あんた。
犀川:この状況でチャンネル配信かよ。
犀川:やっぱり天才の考えることは違うよな。ブッ飛んでる。
蜂須賀:ごめん、まず確認しときたいんだけどさ。
蜂須賀:あんたは誰で、どうして俺は囲まれてるんだっけ?
蜂須賀:その辺の説明からお願いしていい?
蜂須賀:さすがに視聴者置いてけぼりだからさ。

 カメラを自分の周囲にぐるりと回す蜂須賀。
 大勢の人間が蜂須賀を取り囲んでいる。

犀川:どうせ俺のことなんて覚えてないんだろ。
蜂須賀:うん。だから聞いてるワケでね?
犀川:あんたに殴られた「持たざる者」だよ。
蜂須賀:なぐ……。え、俺が?
犀川:感謝してるよ。おかげで目が覚めたんだ。
犀川:そして理解した。
犀川:俺たちの間には絶対に超えられない「壁」があるんだってこと。
犀川:あんたらが教えてくれたんだ……。
犀川:あんたと十環(とわ)さんが、ね。
蜂須賀:トワっち……?

 ようやく合点がいく蜂須賀。

蜂須賀:あ! ああ! あん時のね!
蜂須賀:負け犬こじらせてナイフ振り回してたおっさんだ!
犀川:思い出してもらえて嬉しいよ。
蜂須賀:あんた殴った手、やっぱ捻挫してたんだよ。
蜂須賀:ふざけんなよなぁマジで。
犀川:俺は犀川(さいかわ)。
犀川:「持たざる者」のひとりだよ。
蜂須賀:あ、いいよ、覚える気ないんで。
犀川:ほざくよなぁ。どんな状況もエンターテイメントに塗り替える。
犀川:才能だよなぁ……。かなわないよホント。
蜂須賀:で、結論仕返しってことでオーケー?
蜂須賀:よくもまぁここまで人数集めたもんだね。
蜂須賀:あんまりバイオレンスな演出だと規制かかっちゃうから、ほどほどにしてほしいなぁ。
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