東京メランコリニスタ【vol.7】
権力者
 東京、某所。
 高層のオフィスビルのワンフロアに位置する会議室。
 円卓に並べられた机。主宰と思しき男性がしきりに時計を気にしている。

伊丹:定刻より15分か。
伊丹:予測通りだが毎度理解に苦しむな。
伊丹:なぜ「時間を守る」という社会人として最低限のルールが守れないのか。

 隣に座していた筋肉質の男が快活な声を上げる。

ケビン:まぁまぁ!
ケビン:こういう空き時間にこそ筋トレをすればいい!
ケビン:スクワットに……ああ、そこの椅子を使った自重トレーニングなんかもオススメだね!
伊丹:TPOという言葉の意味はわかるか、ケビンくん。
伊丹:しかし時間がもったいないな。
伊丹:誰か十環(とわ)くんと連絡が取れる者はいないか?

 主宰の問いかけに返事はない。

伊丹:蝉丸(せみまる)くんは?
伊丹:同年代だろう。交流はないのか?
蝉丸:えッ、俺っすか?
蝉丸:いや知らないっすね。
蝉丸:言うてあんま絡んだことないですよ。
蝉丸:畑が違うもん、全然。
伊丹:そうか。
伊丹:天花(てんか)くんは?

 手にしていた文庫本を閉じ、顔を上げる「天花」と呼ばれた女性。

天花:あるように見えますか?
伊丹:いや……そうだな。
伊丹:もう少し待ってみようか。
ケビン:そう言えば御堂(みどう)くんの姿も見えないけど欠席かい?
伊丹:ああ、彼は事前に連絡を貰っている。
伊丹:どうしても外せない用があるとのことだ。
ケビン:そうか! それなら仕方ないね!
伊丹:申し訳ないな、各々方。
伊丹:忙しいなか足を運んでもらっておいて恐縮だが……。
伊丹:世の情勢に関わる極めて重要な会議だ。
伊丹:できる限りメンバーを欠かしたくはない。
伊丹:ご理解の程よろしく頼む。
蝉丸:あ、いや。俺は別に大丈夫っすよ。
天花:私も特に問題はありません。
ケビン:本当かい!? 舞台に映画に引っ張りだこじゃないか、天花さん!
ケビン:正直、僕は君が来てくれたことに一番驚いてるよ!
ケビン:サイン貰ってもいい?
天花:……買い被りです。
天花:サインはマネージャーを通してもらってから……。
ケビン:タンクトップの、ここ!
ケビン:大胸筋のあたりにお願いしたいな!
天花:……まぁ、いいか。

 ケビンのタンクトップにサインを書く天花。

ケビン:サンキュー! 家宝にするよ!
伊丹:ウチも娘が君の大ファンでね。
伊丹:かじりついて観ているよ。
天花:嬉しいです。
ケビン:MeTube(ミーチューブ)の方に腰を据えるつもりはないのかい!?
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