東京メランコリニスタ【vol.10】
螺旋
龍壱:この馬鹿野郎がッ!
男の怒号が響く。
振り抜かれた拳を受け、殴られた相手が地面へと転がる。
頬を押さえた男の口元からは血が流れている。
鏑木:……ぐッ……。
龍壱:聞いたぜお前。
龍壱:カタギ相手に随分と不義理な真似したそうじゃねぇか。おォ?
胸ぐらを掴み、乱暴に体が起こされる。
龍壱:何とか言えやコラ……鏑木(かぶらぎ)ッ!
目を逸らす鏑木。
やがて口を開く。
鏑木:……不義理はどっちだよ……。
龍壱:あ?
鏑木:組ほっぽりだして、アイドルにうつつ抜かしてるあんたに言われたくねぇっすよ……若。
龍壱:てめぇ……言うじゃねぇか。
鏑木:確かに情けねぇ真似しちまったとは思ってますよ。
鏑木:アイドル娘にも……蜂須賀(はちすか)とかいう小僧にも。
鏑木:全部あんたの為だった。
鏑木:あんたが戻ってくれば「鹿羽組(しかばねぐみ)」は安泰だってな。
鏑木:馬鹿みてぇに信じてた。
強い目で相手を睨む鏑木。
鏑木:でももういいんすよ。
鏑木:決めたんす。俺が若の代わりになるってな。
龍壱:お前が、俺の?
鏑木:はい。だからあんたはどうぞ好きなことやっててください。
鏑木:その代わり、組のことには金輪際口出ししないでくれ!
つかの間の沈黙。
鏑木の胸ぐらが離される。
口元を拭い、立ち上がる鏑木。
二人が向かい合う。
龍壱:……ひとつ聞かせろ。
鏑木:何すか。
龍壱:ヤクの横流しも、組の為にやったってのか?
鏑木:あれ、は……。
口ごもり、一瞬視線が外される。
鏑木:……あんたには関係ねぇでしょ。
龍壱:そうかよ。
龍壱が背を向ける。
鏑木:殴らねぇんすか。
龍壱:わかってねぇな、お前。
ふと、目が伏せられる。
鏑木からは龍壱の表情は見えない。
龍壱:殴る方だって痛ぇんだぜ。
鏑木:……。
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