傘の代わりに歌を。
傘の代わりに歌を。
《登場人物》
リツ
ウタノ
コトハ
シオン
イオリ
滝沢先生
女子生徒
下田先生
声たち（兵士）
【序章 銃声と歌声】
幕開き。ライトオープン。青っぽい照明。
雨音と銃声が聞こえる。人々は戦争を彷彿とさせる動きをしている。
女子生徒、人混みの中を必死に逃げている。
声たち 銃声の中に混じる悲鳴。悲鳴の隙間を埋める雨の音。
女子生徒が傘を見つけ、開く。
雨音の中、歌声（合唱曲）が聞こえてくる。
声たち 雨の音に重なる歌声。
少しの間。
声たち 形のない「それ」が、確かに、私の心を潤した。
声たち 喉が壊れてしまうほど必死に。
声たち 心が壊されないよう懸命に。
声たち 雨が降ったら、傘を差す。濡れないように、傘を差す。
声たち 雨のように銃弾が降る、こんな世界で、
女子生徒 私が、私であるために…！
歌声、だんだんと小さくなり、消える。
女子生徒の傘が兵士（声たち）によって奪われそうになる。
声たち 『我が国の国民たる者、いかなる時も国のために心血を注ぐべし。』
声たち 『我が国が苦しむ時、それは国民が共に苦しむべき時である。』
声たち 『国民が次に笑うのは、我が国が他国に打ち勝った時のみである。』
声たち 『よって、音楽、文芸、演劇、絵画といった芸術活動を含む娯楽を全て、例外なく、禁ずる。』
女子生徒、必死に傘を守って逃げ、学校の掃除用具入れに傘を隠す。
雨の音が聞こえる。
中央にいるリツに照明が当たる。
リツ 全世界の皆さん。こんにちは、もしくはアンブレラ。本日の天気は雨。…こんな退屈な天気の日には、一緒に傘を差してみませんか。
リツ、姉からネックレスを首にかけてもらう。
リツに背を向けて去っていく姉。姉の背に手を伸ばすリツ。
ブルー転。舞台が変わる。
【第一章 我が国のために】
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