巡夏
夏は巡る。そして終わらない。
巡夏
場所は伏す
登場人物
〇 井原(いはら)
時代遅れのレンタルビデオショップで働く女性。謎めいている。
〇 恩田(おんだ)
高校卒業後に地元を離れ、都会の大学に進学。夏休みで戻ってきた。
〇 塚本(つかもと)
恩田の友人。実家は恩田の地元の隣の市にある。邦画洋画を問わないホラー映画マニア。
〇 堂島(どうじま)
実家の家業を継いでいる。恩田とは幼稚園の頃からの付き合い。
台本
井原、舞台中央のカウンターに頬杖をついている。恩田、上手側から登場
恩田「…うっわ、高校の時から全然変わってないな…ここ。…イオンとかまだ工事中だし…何年工事してんだよ。」
恩田「…ってことは、『あの店』もまだここら辺にあるはず…」
恩田「あ、やっぱりあった。…てか潰れてないのすごいな。」
恩田、ドアを開ける
恩田「すみませーん…」
井原「いらっしゃいま…って、なぁんだ…恩田くんかぁ。久しぶりだねえ、大学はどうしたの?」
恩田「夏休みですよ。…ってかお姉さん、全然変わんないですね。」
井原「え~、そお?…ふふ、ありがと。それにしても…随分大きくなったねえ。もうお姉さんより大きいんじゃない?」
恩田「はは、確かにそうかもっす。…ビデオって、売れてます?」
井原「ううん、ぜーんぜん。最近は皆サブスク?ってやつで見てるのかなあ。だからねえ、ヒマで仕方ないの。」
恩田「あー…俺も最近ビデオとかDVDとか全然見ないです。そーいうのって今時、ネトフリとかで気軽に見れちゃいますしね。」
井原「そうでしょお?だからねえ、お察しの通りお客さんはほぼゼロ。しいて言うなら、恩田くんが久しぶりのお客さん…って感じかな。」
恩田「それは…何と言うか、大変ですね。」
井原「あはは。まあ、もう慣れたけどねえ。…あ、そうだ。せっかく来てくれたんだし、何か借りてく?恩田くんなら何でも特別価格で貸しちゃうよ~。」
恩田「そうですか?じゃあ…これにします。」
井原「お、ドラマ版『ハンニバル』の全シーズン収録セット!それを選ぶとはお目が高いねえ。それ、お姉さんのイチオシ。何と言ってもレクター博士役のマッツ・ミケルセンの演技がいいよねえ、色気も狂気もバランスよく兼ね備えてる感じでさあ…さっすが『北欧の至宝』って感じだよねえ。お姉さんはあのシーンが特に好きだな~。ほら、あの人肉…」
恩田「あ、その話はそれくらいで。それにしても…ホントこういうの好きなんですね。ホンマ、全然変わってへん…」
井原「あはは、そりゃあねえ…好きじゃなきゃ、こういう仕事してないよ。…そういう恩田くんも!昔の話し方に戻ってるじゃ~ん。」
恩田「…あ、ホンマや。やっぱお姉さんの前やとイマイチカッコつかへんな…」
井原「ふふ。私ねえ、恩田くんのそういうところ好きだよ?一回は都会に行っちゃったけど…こうやってまた戻ってきてくれたところも含めて、ね?」
恩田「っ…それって、どういう意味…あ!そや。そろそろ実家戻らんと…今日、親戚一同でメシ食うんですよ。ほな、これお代です。また来ますね。」
1/15
面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種
Windows
Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。