ヒトは煮ても焼いても食えない
ヒトは煮ても焼いても食えない
作 スズムラ

女子高生 女
不審者 男

道端に鍋がある。男、何かを探している。女、そこに通りかかる。

女「今日の昼ごはんは、肉じゃがとお味噌汁。豚肉とじゃがいも、にんじん。玉ねぎはうちにあるから・・・あ、そうだお醤油切れてるんだった」
男「あっ!いた!今日の昼めしゲット!いや~よく見つかるねぇ~」
女「えっ」
男「うまそうなカマキリ!おなかが大きいねぇ~」
女「・・・カマキリか・・・あの、何してるんです?」
男「うお、な、何してるって、みりゃ分かるだろ昼飯探しだよ」
女「もしかして、昆虫食、ですか?」
男「そうだよ。なんか文句あるか」
女「いえ、昆虫食、私も興味あります」
男「君みたいな女子高生が?そうかい。物好きだな。・・・お嬢ちゃん、よく聞けよ。カマキリは、緑のほうが旨いんだ。それに、今とったこのカマキリちゃん、腹が膨れてるだろ。こいつを水に浸してみる」

男、鍋に張った水の中にカマキリの腹を浸す。

女「わっ、なんか出てきた」
男「そう、このにょろにょろしたのがハリガネムシ。まるでイカ墨パスタだ」
女「寄生虫ですよね。こ、こんなの食べるんですか」
男「うん」
女「え、ハリガネムシを?」
男「ハリガネムシに寄生されたカマキリは、むしろ食べられるために道に出てきてくれたんだぜ。食べないという選択肢はないってもんよ」
女「寄生、されないんですか」
男「されない。煮るから」
女「煮たら食べれるんですか」
男「ハリガネムシもカマキリも、火を通せば食べられる。見た目で敬遠されるけど、カマキリは油で揚げてしおかけりゃ絶品よ。こんなのがタダで食えるんだぜ、みんな損してるよ」
女「へぇ、詳しいんですね。・・・じゃあ、私を食べてください」
男「え?」
女「私を、食べてください。タダですよ」
男「お、お、お、お嬢ちゃん気でも狂ったか?真昼間だぜ。なんて破廉恥な。最近の子は過激だな。俺通報されちゃうよ。ただでさえ道端で虫食ってる不審者なのに」
女「いやそうじゃなくて。私を焼いて食べてください」
男「お、おいおい。俺虫は食べるけど人を食べる趣味は持ち合わせてないっつーか。もし俺がお嬢ちゃんを食べたとしたら、凶悪犯として捕まって、死刑間際までカマキリ食えねーよ」
女「そこをどうかお願いします」
男「駄目だよ。ヒト食べたらブリオン?とかで病気になっちゃうって。俺健康でいたいもん」
女「・・・実は私、人間じゃないんです」
男「・・・え?」
女「私、人じゃないんです。でも私が人じゃないってことに誰も気づかないんです、私の両親さえも。私、いつか人じゃないことがばれてしまうのが怖いんです。そうなったら、きっとお母さんもお父さんも悲しむから。いっそその前に、私が生きていた証拠を消してもらいたいんです」
男「な、なるほどね。親孝行ないい子だ。・・・でもお嬢ちゃん、君、どっからどう見ても人間にしか見えないけど」
女「みんなそういうんです。でも、それは普段隠してるからで。ほら、羽、生えてませんか」
男「羽?」
女「羽です。ほら、今広げてます。大きい白い羽」

男、女の周りを一周する。

男「いや、羽なんか、生えてないようだけど」
女「そうですか。・・・じゃあ、しっぽ、生えてませんか」
男「しっぽ?」
女「はい。しましまの、ふさふさのしっぽです」

男、女の周りを一周する。

男「しっぽも、はえてないようだけど」
女「そうですか。・・・じゃあ、カマキリのカマは、見えませんか」
男「ちょ、ちょっと待て。お嬢ちゃん、羽が生えてて、しっぽが生えてて、カマキリのカマがある動物なんて、聞いたことないぜ。カマキリのカマに関しては今付け加えた特長だろ。じゃないと申し訳なさで意思疎通のできるカマキリの前でカマキリ食えねーって」
女「そう・・・ですか。私は、じゃあ、なんなんですか?」
男「お嬢ちゃんは、きっと人間だ。99%人間だ。生き物に詳しい俺が言うんだから間違いねーって」
女「そっか・・・。私は人間だったのか。なんで今まで気づかなかったんだろう。」
男「まあ、もしお嬢ちゃんがまた人間じゃなくなったら、焼いて食ってあげるからさ。その時はまた、ここに来なよ」
女「ありがとうおじさん」
男「おじさん・・・あ、嬢ちゃん、もしよかったら、一緒にカマキリの素揚げでもどうだい、うまいぞ」
女「うーーん。・・・人間の食べ物じゃないので、いりません。あ、昼ご飯の材料買いに行かなきゃ。お母さんとお父さん待ってる。じゃあね、おじさん」
男「そんなあ!」

女、去る。

終劇。

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