戦国小炎伝
戦国小炎伝
一.
永禄三年(西暦一五六〇年)、皐月。
二十一世紀の学生服を着た三枝が上手舞台上から走り込んでくる。
舞台下にはゆりが歩いている。
三枝、ゆりを見つけ舞台下に駆け降りる。
三枝「ちょっと、そこの方!助けてください!」
ゆり「えっ!?ちょっと、何があったのよ?」
三枝「詳しい話は後です!」
三枝、ゆりの陰に隠れる。A,B、舞台上を上手から走りこんできて辺りを見回す。
ゆり「女の子なら、あっちに逃げていったわよ?」
A,B、礼をして下手へ去っていく。
A,Bがいなくなったことを確認しつつ三枝とゆりは舞台上に上がる。
三枝「はあ、どうにか逃げ切れた…。すみません、ありがとうございました。」
ゆり「それは別に構わないのだけれど…貴女、罪人とかじゃないわよね?もしそうなら
然るべきところに突き出さなきゃいけないのだけれど。」
三枝「違うんです、何も罪を犯してなんていません!」
ゆり「じゃあなんで追われているのよ?見たことのない服を着ているけど、もしかして
あ何処かのお姫様かしら?いえ、口ぶりからして高い身分ではなさそうね。」
三枝「うーん、どこから説明すればいいのか…」
ゆり「ゆっくりでいいわ。そこに座りなさい。」
二人、舞台のへりに腰掛ける。
ゆり「私は竹中ゆり。ゆりさんと呼んでもらって構わないわ。さすらいの剣士...と云えば
聞こえはいいけれど、まあ要は行き場のない放浪者ってところね。あなたは?」
三枝「私は、率川三枝といいます。この通り、この時代、じゃないや、この辺りでは見ない
格好をしているものですから、お武家さまの興味を引いてしまって...こうして
追われていたというわけです。」
ゆり「なるほどね。あまり聞かない話だけれど、その格好なら不思議じゃないわね。
私も気になっていたの。あなたのその服...それは何?それに、今苗字を名乗った
わよね。なのに平民のように振舞っているのは何故なの?」
三枝「きっと、信じていただけないと思いますよ」
ゆり「信じるわ、約束する」
三枝「...どうして、貴女は見ず知らずの私をいきなり信じてくれるんですか?」
ゆり「貴女が今困っていることくらい、見ればわかるわ。私は、困っている人を助けたい。
それ以外に、何か理由が必要?」
三枝「そうですか」
ゆり「ねえ、話してはくれない?」
三枝「...(ためらいつつ)私、...実は、未来から来たんです。ずっとずっと、後の世から。」
ゆり「...え、本当?」
三枝「本当ですよ。苗字があるのも、未来では身分による差がなくて、平民にも苗字が
あるからなんです」
ゆり「...確かに、信じられないわね」
三枝「そうでしょう?...私は別のお武家様にも目をつけられています。助けたことが、
面倒ごとを呼ぶかもしれません」
ゆり「...そうね」
三枝「それも、かなり身分の高そうな方でした。ご迷惑をおかけしてしまうでしょうから、
私はここで失礼しますね。ありがとうございました」
三枝、去ろうとする。
ゆり「...率川さん。」
三枝「はい?」
ゆり「貴女を助けたのは困っていそうだったからだと言ったわよね?」
三枝「はい。でもどうにか生きていけるでしょうし」
ゆり「もう一つ理由があるのよ。初めて見た時に、どうしてか感じたの。
この子と一緒にいたら面白そうだって。」
三枝「面白そう、ですか。」
ゆり「ええ。ねえ貴女。未来に帰るあてはあるの?」
三枝「ない、ですけど。」
ゆり「それなら、未来に帰るまでの間、私と一緒に旅をしてみない?」
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