介錯違い
「介錯違い」 作:玄崎 尭(げんざき ぎょう)

◇登場人物
・切腹人
・介錯人
※その他、台詞のない副介錯人や
 声のみの目付

    ―高名な武家の屋敷の庭。
    畳が敷かれ、手前には短刀が載った三方が置いてある。
    畳の奥には太刀を帯びた介錯人が立ち、切腹人を待ち受ける。

    白い裃の切腹人が現れ、畳に正座する。

    副介錯人が筆と短冊を持ち現れ、切腹人に渡すと去る。
    切腹人、辞世の句を詠む。

    やがて。
    切腹人、裃をまくり、腹を露わにすると、三方の上の短刀を手にする。

    切腹人、そのまま短刀の刃を腹にあてがう。

    その背後で、介錯人が太刀を抜く。

介錯人 いざ(と、太刀を構える)。

切腹人 (介錯人が太刀を抜いたのに気づき)えっ……?

介錯人 ……?(と、太刀を構え直す)

切腹人 いやいやいや、……えっ?

介錯人 いざ。

切腹人 えっ……? 待って待って待って、
    えっ、えっ?

介錯人 ……?(太刀を構えたまま)

切腹人 ……あの、切腹、ですよね?

介錯人 そうですよ、切腹ですよ?
    では、いざ(と再び太刀を構える)。

切腹人 いや、ちょっと待って待って待って。
    えぇっ? どうして?

介錯人 いや、そっちこそ、なんなんですか?

切腹人 切腹でしょ?

介錯人 切腹ですよ? では、いざ(と太刀を構える)。

切腹人 だからそれがおかしいんだって。

介錯人 えっ?

切腹人 切腹なんですよね?

介錯人 そうでしょ、切腹するんでしょう?
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