双星輝く十三夜月
夜双曲
双星輝く十三夜月

登場人物
右染(うぜん)(18) 男。名を「猫橋 右染」双子だが、簪職人として生かされている
左紋(さもん)(18)男。名を「猫橋 左紋」双子だが、跡取り息子として育てられる
一助(いちすけ)(17)男。名を「春馬 一助」万雷屋という老舗茶屋の跡取り息子で、幼馴染達の中で一番若い
銀(しろがね)(19)女。名を「猪口 銀」万雷屋という老舗茶屋の店子で、幼馴染達の中で年長者
惣太郎(そうたろう)(38)男。名を「猫橋 惣太郎」傲慢な父親で全てを思いのまま従わせる
影代(かずよ)(35)女。名を「猫橋 影代」線は細いが芯のある母親で、双子のことが一番大事。
語り部(不問)不問。

あらすじ

1871年。明治のはじめ、百花の王が咲く頃の話でございます。
簪屋の『綺虎屋』には双子がおりますが、それを父が認めず、二人は跡取りと職人として、表向きは生かされています。
課せられている決まりはただひとつ。
『二人で表に出ないこと』でございます。
それを破り、父に知られてしまった双子は銃を握らされて、とある選択をする事になりました。
銃声、ごうと燃ゆる炎の音、上る十三夜月。
子らの選択はどのようなものになったのか、是非皆様に見届けていただきたく思います。
万雷の拍手のご準備を、お客様。


○ 二人だけの空間

暗い舞台に右染と左紋がおり、ライトが当たる

左紋「僕は、『綺虎屋(きとらや)』の一人息子の猫橋(ねこはし)左紋(さもん)だ」
右染「俺は、『綺虎屋』の隠し子の猫橋(ねこはし)右染(うぜん)だ」
左紋「僕達は双子なんだ、本当は。猫橋 影代(かずよ)という母から生まれた双子」
右染「皆様、こう思ってるだろ? 一人息子と、隠し子なんてどう言うことだ? って。…なァに、簡単なことさ。親父殿が双子というものを認めなかったんだ、世間体が悪いって言ってな。だから、跡継ぎに左紋を選んで、俺は隠し子として、表では『職人』として生かされてるって訳だ」
左紋「跡継ぎなんて僕には不相応だし、嫌だよ。こういう、表に立つのは、右染の方が向いてるんだ。」
右染「そんなこと言うなよ、俺は落ち着ちついたお前が跡取りに向いてると思ってる。第一、なんかあったら支えてやるって言ってるだろ?」
左紋「分かってるけど、どうして僕なんだって思う。…いや、分かってはいるんだ。僕には、自分の意志が無くて、父上の操り人形でしかない。でも、それが跡取りとして正しいことなんだって思う様にしてる」
右染「俺は親父殿の思う『理想の子』じゃなかったってだけだよ」
左紋「そんなこと無い、少ない時間だけど一緒にいれる時間が、双子として本来の自分に戻れる時間なんだ」
右染「と…こんな感じで、俺たちって歪な双子、というか家族なんだ」
左紋「一緒に居たいんだけど、家族として遠いんだ」
右染「どうして、一緒に居れないんだろうな」
左紋「こんな家、無くなってしまえばいいのに。兄弟が仲良く一緒に居れないなんて、不幸だ」
右染「こんな家、早く出たいな。そん時は、左紋も一緒に行こうぜ」
左紋「それは…父上から、許されるんだろうか」
右染「あのな、こういう話の時は、親父殿のことは考えなくて良いの。一緒に行きたくないのか?」
左紋「…それは、勿論。ついて行きたいに決まっているだろ」
右染「俺は真面目に考えてる。俺だけこの家から逃げて助かるんじゃなくて、左紋と一緒にこの家から逃げて生きたい」
左紋「右染…」
右染「お前にだけ重荷を背負わせる気はない。…でも、俺もまだその力はないから、もう少し、時間が欲しい」
左紋「うん…じゃあ今日も、日常に戻ろう」
右染「帰りたくねぇ」
左紋「分かっているけど、今はそこに居場所があるんだ。…そうだ、今日は万雷屋(ばんらいや)に行こう。確か、新茶と新作お菓子の試食会に呼ばれただろう?」
右染「お、そうだった。早く行こうぜ」
左紋「うん、じゃあ先に行ってるよ」
右染「おう、じゃあ後でな」

右染左紋ハケる
語り部が舞台に現れる

語り部「さァこれより始まりますは古いお話。双子が忌子(いみこ)であった時代。なんと双子を生んだ母親は「畜生(ちくしょう)腹(ばら)」等とひどい呼ばれ方をされていた時代のお話でございます。とんでもない時代があったものですな。 これより話すこの双子、体の大きさに少々のの差があったとか。まア現代では分かっているそうですが、時折、双子とは母親のお腹の中に居るときに「血を受け取り続けた方」と「血を送り続けた方」がいるそうでね。「血を受け取り続けた方」は強く大きいそうですな。これが逆に「血を送り続けた方」は弱く小さなものであったといいます。それは誰が見ても、目に見えて明らかだったそうでございます。 段々とこの双子、今では検討もつきませぬが、精神的な面にもこの「強い」「弱い」が作用したのでございましょう、二人の人格が大きく変わっていきました。双子の内が一人は、とても元気な子でございました。使用人達曰く、なかなかの聞かん坊で手がつけられないことがしばしばあったと言います。だがそれが災いしてか、家長の理想の子供像とはかけ離れており、隠し子として育てられ、年頃にもなろう頃合いには家業の簪職人として生かされていたそうな。ではもう一人はというと、ひ弱で大人しく、とても育てやすかったと、世話に関わった者は口を揃えて言いまする。 まこと、大人しすぎるその子供は家長の理想とする子供像に絡繰り箱(からくりばこ)のようにぴたりと当てはまり、家業の全てを受け継ぐ跡取りとして大切に育てられていたそうな。 それでは歪なこの家族の物語、月が昇ると共に幕を開けます。皆様、万雷(ばんらい)の拍手をもって役者をお迎えください。『双星(そうせい)輝く十三夜月(じゅうさんやづき)』」

暗転
1/12

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム