薄現屋敷にて
夜双曲
薄現屋敷にて
菜月 (女)なつき 郷宮大学3年生。入院の外泊で屋敷に来る
陽菜 (女)ひな 郷宮大学3年生。菜月の外泊を嬉しく思っている
黒川 (女)くろかわ 薄現屋敷の主人。菜月を屋敷に呼んだ小説家
黒皮 (不問)くろがわ 薄現屋敷のもう一人の主人。黒皮に似ている
平良 (不問)たいら 病院勤務の精神科医。菜月の主治医
珠夜 (女)たまや 病院勤務の脳外科医。平良の同僚
あらすじ
薔薇の庭園と霧が出る様子を「現実が薄れる」として名前のついた屋敷である薄現屋敷に招かれた菜月と陽奈。2人は黒川が集めた蒐集品を見て、オヤシキサマという不思議な存在の話を聞く。2人が、いや、菜月がここに招かれた理由とは何か、夜明けとともに明かされる。薄現屋敷の扉は開かれた
○ 郷宮記念病院 ナースステーション前(午前)
ナースステーション前にて菜月が荷物を持って平良と会話をしている
平良「…では、外泊の許可も出したので、道中気をつけて」
菜月「はい、行ってきます」
陽菜「楽しみだね、菜月」
平良「但し、調子が悪くなったら必ず戻ってきてね、何かあったらいつでも病院に電話してきていいから。ちゃんと薬も飲むこと、菜月さんは夕食の後の薬を飲み忘れることが多いから」
陽菜「本当だよね、菜月ったら忘れ物が多いんだから!」
菜月「わかります。だからちゃんと、飲む時間に薬を小分けにしましたもん」
平良「そうだね。では、いってらっしゃい」
菜月「行ってきます、先生」
陽菜「菜月は任せて、先生」
外出する菜月と陽菜
ナースステーション内のPCでカルテに記載をする平良。マグカップを持って後ろからそっと近づく珠夜
平良「12月1日、午前9時。外泊のため外出する…っと」
珠夜「古鳥 菜月(ことり なつき)さん、21歳。おお、11月25日が誕生日だったんだね」
平良「お前、いつからそこにいたんだよ」
珠夜「さっき、この菜月さんだっけ? その子を見送ったの見えたから、その後、カルテ入力してるんだろうなーって思って来てみた。あとは、これから一緒に担当する患者さんのことは知りたいじゃん。教えてよ、平良先生」
平良「なるほどな。じゃ、カルテ読めよ」
珠夜「うーわ、冷たい…で、この子は…あ、郷宮(さとみや)大学の3年生か。お前の後輩じゃん」
平良「学部がちげーよ」
珠夜「まーな。ほんで? このカルテにちょこちょこ、似鳥 陽菜(にたどり ひな)って名前も出てるな。この子は?」
平良「彼女の双子の姉だ」
珠夜「苗字が違うのは…」
平良「幼少期に両親が離婚したときに離れることになったみたいでね、その影響。菜月さんは厳格な父親に引きとられたって本人から聞いてる」
珠夜「その話だと、抑圧され気味だった印象だな」
平良「当たりだ。ただ、姉とメッセージのやりとりをしていて、本人はなんとかバランスを保ってたみたいだね」
珠夜「ふーん」
平良「って感じだな。ただ、今回の外泊、許可したのが良かったのか…心配だな」
珠夜「なんで?」
平良「陽菜さんがさっきいたんだよ」
珠夜「おう」
平良「…それだよ、懸念点」
珠夜「ふーん…待つしかねーんじゃねーの。あの子、もう行っちまったし」
平良「…そうだな」
暗転
○ 薄現屋敷 応接室(昼)
暗転した舞台で菜月が話す
菜月「病院を出発した私は陽菜ちゃんと一緒に、郊外にある薄現屋敷(はくげんやしき)というところに来た。二階建ての大きなお屋敷が奥に、手前には大きな薔薇の庭園がある。黒川さんという、同じ小説家としてネットで活動している人にお呼ばれしたのだ。今まで何度もオフで会ったりしてきた。その度に、彼女の歴代から伝わる様々な収集品を写真で見せてもらった。今日は実物が見れるのだという。色んなものを見せてもらって、沢山話がしたいと、道中、陽菜ちゃんにいうと「楽しそうだね」と笑顔になってくれるのであった」
明転
蒐集品の揃った応接室
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