沼の鶴
ぬまのつる

田鶴(たづ):沼にすむ女
青年:あることを求めて、たづに面会する
軍曹:南部戦線をとりしきっている
午之助:たづの使う男


++++

軍曹:そこは、一面の沼だ。
軍曹:沼だ。だだっぴろい沼だ。
軍曹:その沼の中心には浮洲がつくられ、労働者たちが巨大な水車を回し、沼の底を絶えずさらっている……
軍曹:あそこには……いや、噂に過ぎないが、それに賭けるしかない。
軍曹:お前は舟で浮洲に密航し、沼の労働者となるんだ。
軍曹:いいか、沼地へ行ったらブ男をさがすんだ。すぐにわかる。うまのような顔の長い男だ。そして、「南方」の「炭鉱」から来たと言え。
軍曹:速やかにな。お国の命運にかかわる、名誉なことだぞ。いいな。しっかりな。

軍曹:…………無事に戻れよ。



午之助:さらえーぃ、さらえーぃ、はいさぁー!
青年:(重い棒を圧し続けている)はぁ、はぁっ、はぁ、はぁ、
午之助:お前、
青年:!
午之助:おおお、お前のような薄白い男がいたかいな
青年:自分は、本日から……
午之助:自分、本日。あやしい、奴だな……沼で働く奴が軍人のような喋り口で
青年:っ!いや、おれはこの通り稼ぎ口なく、「南方」の「炭鉱」から戻りました者で……
午之助:ああ?南方の炭鉱は今徴収されて……
青年:いえ、ですから……とにかく、南方の炭鉱から……
午之助:はあ、そうか。……「例の」。「例のこと」だな……
青年:えっ!
午之助:いひひ、きいておりますよ……ね、あのことでしょう……
青年:ええ、そう、そうですから、お声をどうか潜めてください。午之助殿、あなたに聞けばよいと聞いてまいりました
午之助:え、うまのすけ殿
青年:ええ、あなた、午之助殿
午之助:えへへ、どの、どのはいいですねぇ……
青年:それであの……
午之助:どのを、も一度お願いしますよ
青年:えっ、……午之助殿。お聞き及びの通り「例のこと」、ここの長と話をしたいのです。
午之助:えへへ。今はうー、いけません、夕暮れにあそこに。
青年:(かぶせて)夕方に、どこに。
午之助:えー、えへへ、煙突
青年:煙突?煙突とは
午之助:し、しごと、仕事におもどりなさぁい。つっかえるからな……水車が……
青年:あっ、ちょっと、煙突とは!
午之助:(低い声で)この先、ずぅっと、ここの中を進むのです
青年:……この土管の先、ですか?
午之助:すぅあ!
青年:!?
午之助:すわ、さらえーぃ、さらえーぃ、はいさぁー!おとこし、さらえーぃ、さらえーぃ……

(夜になり、泥水の中を進んでいく青年)
青年:はっ、はぁ、
青年:うっ、酷い匂いだ……本当にここを?
青年:はぁっ、は、はぁー。はぁー、あー!げほっ……
青年:ああ……あそこに光が……
青年:はぁ、はぁ……
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