花と妖精
舞台上手寄りにロッキングチェアがあり、おばあさんが座っている。おばあさんは大きめの石を掌で弄んでいる。
おばあさん:(石を日にかざしながら)なにかしら、これ。とても大事なものだった気がするのに……
おばあさんは庭を見渡す。視線の先に少女が現れる。
少女は地面に座って、本を開く。本を読もうとしたとき、羽虫が寄ってきたので、手で払いのけようとする。羽虫はなかなかしつこく、離れてくれない。払おうと暴れまわり、少女は後ろに倒れこんでしまう。虫が去っても、気分が害されたので、溜息を吐きながら本を閉じて地面に置いてしまう。
少女はふと、置いた本の真横に花が咲いているのに気づく。
少女はいったんはけ、ジョウロを持ってくる。花に水をやる。そして花の側に座り込み、花を観察する。
自転車に乗って、見回り中のおまわりさんが登場する。
おまわりさん:おばあさん、こんにちは!
おばあさん:こんにちは、おまわりさん。今日も元気ね。
おまわりさん:元気いっぱいです!日向ぼっこですか?いいですね!
おばあさん:ええ。そうだ、お茶を出すわ。おまわりさんも、ここで少し、休んでいきませんか。
おまわりさん:では、お邪魔します!(自転車から降りて)先輩にはナイショにしてくださいね。見回り中なので!
おばあさん:ええ。いつもありがとうね。老人の一人暮らしだから、心配して様子を見に来てくれているんでしょう。
おまわりさん:いいえ!僕はただ、この時間が好きなだけなんです!おばあさんと話すと、気分が落ち着くんです。それに、ここの花壇も見事で、いつも見とれてしまいますし。
おばあさん:あら、そう。そう言ってもらえて、嬉しいわ。おまわりさんも、麦茶でいいかしら?
おまわりさん:はい!ありがとうございます。
おばあさんが、お茶を用意するため退場する。
花を見ていた少女は、手を叩き、何かを思いついた様子。木の枝を拾い集め、花の周りに差し、簡易的な柵を作る。
おまわりさんは、少女には目もくれず、おばあさんを待っている。おばあさんが座っていたロッキングチェアの上に本があるのを見つけ、ページをめくる。
おばあさんが、お茶が入ったグラスを持ってくる。
おばあさん:あなたも本を読むの?(グラスを手渡す)
おまわりさん:いえ、全然!(グラスを受け取り)あ、いただきます! 僕、文字を見てると眠たくなっちゃうんですよ。これは何の本なんですか?
おばあさん:子ども向けの、魔法使いが出てくるお話よ。
少女は柵を作って余った木の枝を杖代わりにして、振り回しながら優雅に走り回り、踊る。
おまわりさん:魔法使いか~!僕も魔法を使えたらなあ。
おばあさん:どんな魔法を使いたいの?
おまわりさん:ううん……。何かこう、町を守るのに役立つような……。あ!瞬間移動する力とか!通報があれば、どこへでもすぐ駆け付けられるかも。
おばあさん:ふふ。おまわりさんは、根っからの正義の味方なのね。この本の主人公に似ているわ。いつも、人のためになることを考えている子なの。そうだ、読んでみる?子ども向けだから、読みやすいわよ。挿絵がたくさんあって、絵柄がとても素敵なのよ。
おまわりさん:僕みたいな主人公、か。気になるから、読んでみようかな。
おばあさん:(本を手渡し、)是非そうして。返すのはいつでもいいわ。
おまわりさん:この子が主人公かな。強そうだし、なんだか優しそうですね。
おばあさん:ええ。そういうところも、あなたにそっくり。私はね、主人公をサポートするこの妖精が好きなのよ。
おまわりさん:かわいいですね。
少女は柵の花にジョウロで水をやり、杖を振る。
おまわりさんは、本に挟まった栞を取り出す。
おまわりさん:押し花ですか?きれい…
おばあさん:手作りなのよ。この庭で咲いた花なの。
少女は、入退場を繰り返し、その度に花に水をやり、嬉しそうに眺める。
おまわりさん:素敵ですね。これはなんていう花ですか?
おばあさん:それがね、ずっと分からないのよ。調べたりもしたんだけれどね。
おまわりさん:優しい色の花ですね。花弁が透けていて、なんだか儚い感じ。
おばあさん:良いでしょう。私も、昔から好きなの。春……ちょうど今頃、芽を出して、夏前に花を咲かせるのよ。今年も花壇に種をまいたわ。
おまわりさん:咲くのが楽しみですね!
花がしおれ始め、水やりをしていた少女は驚き、焦る。
より一所懸命な様子で、水やりをつづける。
おばあさん:秋が近づくと枯れてしまうのだけど、それまでは結構長い間、立派に咲き続けるの。
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