モンストロ

モンストロ

樹咲:樹咲心(きさきこころ)  22歳・大学生
氷野:氷野季織(ひのきおり)  22歳
村上:村上陸(むらかみりく)  22歳・大学生

受付:
父親:
面接官:

【シーン1】

樹咲:(M)幼馴染の氷野季織があと半年しか生きられないと宣告を受けたのは、私達が高校3年生の頃だった。
氷野:なんかね、クジラの心臓みたいに脈拍がゆっくりになっちゃう病気なんだって。どくん、どくん、どくん、どくん。が……どくん、……どくん。って。
樹咲:(M)それを聞かされた当時の私は、どんな顔をすればいいかわからなくて、多分正解なんてものは存在しなくて、
氷野:パパがね……もうずっと泣いててさ。それ見てるとなんか、逆に冷静になっちゃうっていうか……。あはは、涙も引っ込んじゃって、それでさ……
樹咲:(M)物心ついた時から当たり前のように在ったものが、永遠にいなくなる。
樹咲:想像しただけで、吐き気と浮遊感に似た形容できない感情が私の胸のあたりを締め付けて、
氷野:陸にはもう別れようって言ったんだけど。……ねぇ、ここちゃん。さっきの……話、なんだけどね。
樹咲:(M)私はその痛さに耐えきれなくって、これ以上季織の言葉を聞くのが怖くて、この現実から逃げ出したくて、だから
氷野:色々考えたんだけど、私やっぱりーー
樹咲:(食い)季織……っ!私は……っ!!

ト書き:●季織に生きて欲しいと有無を言わせず告げた樹咲心。季織はそれを聴き、哀しみとも喜びとも取れるような絶妙な表情を浮かべ、唇を噛み締める。

氷野:……。〜っ……。(諦めたように)……うん。そうだよね。ありがとう、ここちゃん。
樹咲:(M)そう言って、季織は笑った。ーーそれから、4年。幼馴染の氷野季織があと半年しか生きられないと宣告を受けてから4年が経って、私と季織は22歳になった。もう、4年も経ってしまった。


【シーン2】

ト書き:●季織は難病を患い通常大気下では生存が難しい為、宇宙および深海環境用に開発されたモンストロと呼ばれる20㎡(5m四方程度)程のユニット内で生活している。

受付:国立技術研究法人、深宇宙環境開発センターへようこそ。エリア・モンストロでの治験面会時間は1時間です。ごゆっくりお過ごしください。

ト書き:●樹咲は面会室へ。 モンストロとは隣接しているがガラス一枚隔たっており、直接触れ合うことはできない。

樹咲:季織。おーい(ガラスをノックする)
氷野:(気付き、喋ろうとするもスピーカーがオフになっている)
樹咲:季織?ねぇ、聞こえないんだけど。スピーカーついてる?えっと、声。聞、こ、え、な、い。(ジェスチャーをする)
氷野:! ごめんここちゃん。スイッチ入れ忘れてた。どう?
樹咲:聞こえた聞こえた。どう?お変わりない?
氷野:毎日暇だよ。ここちゃんが来てくれないと退屈死しちゃうとこだった。
樹咲:横須賀までもう少し近ければね。
氷野:片道2時間でしょ?来てくれるだけで嬉しいよ。
樹咲:ガラス一枚分、距離があっても?
氷野:ガラス一枚分距離があっても、ここに居るのが重要なのです。でもここちゃんが嫌だって言うなら、外に出てもいいよ。
樹咲:冗談やめてよ。それなら私がモンストロに入る。
氷野:えー、酸素濃度も気圧も外と全然違うから、すっごく息苦しいと思うよ。あと寒いかも!
樹咲:……それでもいいよ。別に。
氷野:冗談だよここちゃん。言ったでしょ、ここに居てくれるのが重要だって。そんなに遠くないよ、ガラス一枚。なんか、ドラマとかでよくある弁護士と犯罪者のあれみたいだけど。
樹咲:もっとお洒落に例えようよ。そんな、物騒なのじゃなくて、もっと綺麗な……あ、水族館とか?
氷野:……。そっか、確かにその例えがぴったりかもね。
樹咲:わ、わわ!ちがっ!違うの!嘘!そんなつもりじゃ……。怒った?
氷野:ふふ。ね、ここちゃん。大学、どう?今年卒業でしょ?
樹咲:……就活の進捗、なんとあります。
氷野:え!受かったの!?
樹咲:まーだ。けどね……!ここの一次通った。明日面接!
氷野:どこ?
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