私のパパはどんな人
幕開け。
【リビングルーム】
ダイニングテーブルで、知香が勉強をしている。
航平が新聞を持って登場し、席に着く。
知香:読み終わったら、そこに置いておいて。私も読むから。
航平:知香ちゃんも新聞を読むのか。
知香:面接に役立つかなって。
航平:ああ、受験の。
知香:もう1月だからね。面接対策も始めておかないと!
航平:そうか。なら、勉強で忙しいだろうから、大事なところだけ切り取って、まとめておこうか。そうすれば、勉強する時間も増やせるだろう。
知香:本当?助かる!ありがと、じいじ!
航平:知香ちゃんの受験のためだからね。(知香が広げている教材を指差し)ああ、そこ、間違っているね。
知香:ええ?
航平:それは、真っ先に消さなきゃいけない選択肢だよ。本文に書かれていないことだろう。
知香:ええ、でも、それっぽいんだけどなあ。
航平:その通り。それっぽく、誘導するように問題を作っているんだ。
知香:なんで問題文を知ってるの?
航平:昨日、プリントをここに放ったまま寝たろう。つい読んでしまって。ボケた脳には、いい刺激だったよ。
知香:全然ボケてないじゃん、私の方が大ボケだよお~。(間違った回答を消し、頭を抱えながら、解き直そうとする)なんだか、じいじって……
航平:(小さく笑いながら)知香ちゃんももう、高校生かあ。
知香:(呆れながら、照れつつ)じいじ、気が早いよ。まだ受験も終わってないのに。
航平:知香ちゃんなら、難なく受かるだろうからね。受けるのは、あそこだろう。セーラー服の。
知香:うん、そう!可愛いでしょ。そのために、あの学校を受けるの。
航平:知香ちゃん、知ってるかい?智美さんも、高校ではセーラー服だったんだよ。
知香:えっ、そうなの!?
航平:ああ。確か押し入れの奥に、智美さんの卒業アルバムが……
智美登場。
エプロンの裾で、軽く手をぬぐっている。(キッチンから飛び出してきた)
智美:(軽く咎めるように)航平さん!
航平:(ばつが悪そうに)あっ。
知香:ねえ、ママ!ママの卒アル、見ていい?
智美:やあよ、恥ずかしい。
知香:ええー。だめー?
智美:だめ。
知香:(不服そうに、ふくれて)なんでー?
智美:だめったらだめなの。(話を無理やり逸らそうと)ほら、宿題やってたんでしょ。手が止まってるわよ。
知香は不満げな態度を前面に出しながらも、勉強を再開する。航平も新聞を読み始め、智美は掃除を始める。
知香は突然、勉強する手を止め、考え込む。そして、何かに気付いた様子を見せる。
知香:わかった。……パパもそのアルバムに載ってるんでしょ。
智美:えっ?
知香:パパの写真もあるから、見せたがらないんでしょ。私たちの名字って、パパのでしょう。ママの旧姓は違うもんね。だから、その名字で探せば……
智美:(焦りを隠し切れない声色で)何を言ってるの。
知香:あ、今、一瞬焦ったでしょ。
智美:そんな事ないわ。(目を反らし、手作業を再開する)
知香:ねえ、なんでママはパパの話を全然しないの?というか、私、なんでこの家にパパがいないのかも知らないや。小さい頃からずっと、ママとじいじしかいなかった。離婚したの?それとも……死別?
航平:ふっ。(小さく笑う)
知香:(憤って)なんで笑うの!
航平:(知香の発言に呆れつつ、面白がって、愛おしそうに)知香ちゃんがパパを勝手に死んだことにしちゃうから。
知香:だって、パパのことを何も知らないんだもん!まあ、別に死んだってわけじゃないのね。じいじは知ってるんだ。
航平:まあ……。(智美のほうへ目を向け、逸らして)そうだな。
知香:私、小さい頃のこと、少しは覚えてるんだからね。パパがいないのが変だって気づいたとき、ママとじいじに理由を聞いたの。でも、はぐらかしたでしょ。それから何度も聞いたけど、毎回答えてもらえなかった。
智美:覚えてるの?
知香:うん。
智美:そのときに私がした質問も?
知香:質問?
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