醜いといわれたこの羽で
「醜いといわれたこの羽で」
ハエ:ハエ。とにかく熱いハエ。真面目。ハエであることに誇りを持っている。
ネズ:ネズミ。陰気。下水道の案内役。
蝶々:蝶々。世間知らずな蝶々。
モグ:モグラ。こじれて、歪んだ、ひねくれ者。
蛞蝓:ナメクジ。人間への復讐を企て、ポンコツな自分へのコンプレックスを持つ。
Act 1 排水口
少し薄暗い照明、段々明転。
SE:水が流れる音。
舞台の中央で、ハエが倒れている。
ハエ …ううう、ごほっ…ゲホっ! はぁ、はぁ…あれ。僕、生きてる…はぁ、早くこんなところ出ないと…よいしょ…
飛ぼうとするが羽が濡れていて飛べない。
ハエ ん? あれ、おかしいな、なんで飛べないんだ、もう一回、んんん! あれ、もう一回、んん!! …うそ、飛べない…え、もう僕は、もう、飛べなくなってしまったのか… 僕はずっとここで、一生を過ごす… いやだ、噓だ、うあああああ、うわあああ!!
ネズミが登場、変な帽子を被っている。ハエはうずくまって絶望している。
ネズ ここら辺から、声が聞こえたな。なんだ、ここ、濡れていやがる
ハエ うわああああああ
ネズ おい、あまり大きな声を出さないでくれ、補聴器がうるさくなる
ハエ あ、あなたは?
ネズ ああ? 俺は見ての通り、ネズミだ。お前は…ハエ、か
ハエ ネズミ? ネズミ…そう、僕は見ての通りハエさ。どうしたんです、近くで見るとグロテスクとでも言いたいんですか?
ネズ なんでそう卑屈になる
ハエ 僕は、ハエだ。人間に嫌われて、どんな生物からも嫌われている、ハエ
ネズ 全生物から嫌われているなんて、よほど自分が好きなんだな
ハエ …え?
ネズ 全員から嫌われているなんて、自意識過剰にもほどがあるだろ
ハエ …だって事実でしょ
ネズ それを決めるのはお前じゃない。他の生物だ。少なくとも、俺はお前を好きになった
ハエ 口が上手いね、まだ会って一分も経ってないのに好きになるなんて、噓だね
ネズ それを決めるのもお前じゃない、俺だ
ハエ ふん、なんとでも言えるね
ネズ …お前は、なぜここに来た。見たところ、濡れているが…外は雨が降っているのか?
ハエ …雨で流された方がマシだったよ
ネズ …というと?
ハエ 人間だ! 偶然、風呂場の中に入ってしまって、慌てた人間がシャワーを僕に向けて排水溝へと流したんだ。羽が濡れた僕は、無抵抗のまま流されて、気づいたらここにいた
ネズ そうか、それは災難だったな
ハエ 災難!? ふざけるな! あんな恐ろしい仕打ちを受けたんだぞ! しかも事故じゃない、完全に僕を狙っていた。僕を、殺そうとしていた! …あれは悪魔だ
ネズ …申し訳ない
ハエ …いや、いいんだ。大きな声を出して悪かった
ネズ こちらこそ、嫌なこと聞いちまったな、悪かった…
ハエ …
ネズ …そうだ、濡れたその羽が乾くのに時間が必要だろう。その間、俺がここの下水道を案内するってのは
ハエ …いい案だね、どうせ、このままここにいても暇なだけだ、案内してくれよ
ネズ よし、俺様についてこい
ハエ あはは、ありがとう。ちなみに、君はなぜここにいるんだ?
ネズ …俺か?
ハエ 他に誰がいるんだよ
ネズ …まぁ、歩きながら話そう
ハエ なんだよ、少しくらいいいじゃないか
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