遠き井戸。
『遠き井戸。』
□あらすじ
穴の底に閉じ込められた二人の少年の話。
□登場人物
A:アマト。外に出たがっている。
B:ヒキヤ。出なくて良いと言う。
□□□
二つ並んだ縦穴。
その底に、アマトとヒキヤ。
A:なぁヒキヤ?
B:なんだい? アマト。
A:もし外に出られたらお前は何がしたい?
B:君は何がしたい?
A:質問に質問を返すなよ。
B:それは悪かった。
A:全く気をつけろよな。
B:じゃあ、こうしよう。
A:んー?
B:人にモノをたずねるなら、まず自分から言うべきだと思うよ。
A:うーん、……確かに。
B:ははは。そうだろう?
A:おっけー。じゃあよく聞けよヒキヤ。俺がもし外に出られたら――。
B:(M)もし外に出られたら。隣に閉じ込められたアマトがいつも語る無邪気な夢。しかし僕は、夢の前提が間違っていることを知っている。だって僕達は、決してここから出ることは叶わないのだ。
B:(M)ここにあるのはベッドと便所。それと頭上遙か高くにぽっかりと口をあけた空。食料と本と紙とペンがそこから落ちてくるだけの暮らし。それ以外には何も無い。いや、強いて言うなら、壁一枚隔てた向こうにアマトがいる。僕達はきっと死ぬまでここにいるのだろう。もしかしたら、死んでもここにいるかも知れない。
B:(M)そんな分かりきった現実を前に、そんなモノ知ったことか! と今にも空に飛び出していきそうな夢を語るアマトだけが僕にとっての外だったんじゃないかとそう思う。
□
A:って感じなんだけど、どう思う? ヒキヤ。
B:ん。良いと思うよ。最高。流石アマト!
A:だろ!
B:ああ。
A:なんて言うと思ったか?
B:えー?
A:どうせ聞いてなかったんだろ?
B:聞いてた聞いてた。アレだよね? キラキラした白い砂の浜辺に、海みたいに綺麗な青い屋根の大きな家を建てて猫を飼う、だっけ?
A:ぶっぶー、違いまーす。
B:いつもそう言ってたのに。
A:いつもはな? でも今日は違う。
B:夢が変わったの?
A:そうさ。
B:どう変わった?
A:キラキラした白い砂の浜辺を見下ろす岬に炎のように真っ赤な屋根の家を建てるんだ。
B:ちょっと良いところに建てることにしたんだね。
A:前にヒキヤが、浜辺に家を建てるのは現実的じゃ無いって言っただろ?
B:言ったね。
A:だから岬にしてみた。
B:変わらない気もするけど。
A:全然違うね! というかお前聞いてなかったじゃん!
B:聞いてた聞いてた。
A:嘘だね。
B:嘘じゃ無いよ。
A:だったら何を飼うって言ってたか分かるよな?
B:そりゃ、猫――
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