扉の前で囮は悔いる。
「扉の前で囮は悔いる。」
仲間を助ける為の選択、その後悔と悔悟の話。
◆あらすじ◇
勝ち目の無い強敵と遭遇し、仲間を助けるため囮となって扉を閉ざした男が扉の前で悔いる。ただそれだけの話。
本作には仲間視点版「扉の向こうに後悔の英雄は囚われて。」と両者視点版「悔いる囮と囚われの英雄に固く扉は口を閉ざす。」があります。
三部作という訳ではなく、同じ設定の三つの作品があるといった感じです。
◇登場人物◆
俺：後悔している男。強い。
◆◆◇◇
閉ざされた扉に男がもたれかかっている。
俺：やはり、悔いがないと言えば嘘になる。
俺：固く閉ざされた扉の前で俺はふと思った。
俺：勝てる筈がなかったんだ。
俺：運悪く勝ち目の無い強敵と遭遇した俺達は、みんなで死力尽くして戦って、そして散々に敗走した。
俺：与えられた選択肢は二つ。
俺：全員纏めてさようならか。
俺：誰か一人がさようなら、だ。
俺：だから、俺は喜んでその役目を買って出た。
俺：普段なら、憎まれ口叩いて顰蹙買うばかりの俺が、
俺：なんと珍しいことに、囮になってみんなを逃がした。
俺：いやぁ、たまには良い子ちゃんしてないと罰が当たるってな。
俺：俺という存在に新しい可能性が開いた気がする。
俺：そしてそれ以外の扉を、自らの道を閉ざしたのだ。
俺：ああ、分かってる、生きて帰れるだなんて思っていない。
俺：命を賭けて、そしてそのまま果てゆく運命と。
俺：俺の命一つで未来が繋がるなら安いものと。
俺：俺はそう思っていたのだ。
俺：散々だせぇ生き方したんだ、精々最期くらいかっこよく散るさ。
俺：そんなことを思った。
俺：ああ、今頃、俺はみんなの中で英雄になっているかもしれない。
俺：俺はこうして命を賭けて仲間を救ったけれど、やがてあいつらは、もっと大きなものを救うんだろうなぁ。
俺：そう、例えば、
俺：世界――とか？
俺：ははは。
俺：それはいいな、最高だ。
俺：救うと信じたから俺は命を賭けたんだ。
俺：だから、きっと救ってくれる。
俺：いや、救ってくれないと困るというのが本音だ。
俺：でなきゃ俺が救われないじゃないか。
俺：でもよ、それを俺はここからじゃあ見届けられない。
俺：だから、信じるしかないないんだなぁ、これが。
俺：しっかり救ってくれよ、世界ってやつをよ。
俺：俺は考えた。
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