悔いる囮と囚われの英雄に固く扉は口を閉ざす。
「悔いる囮と囚われの英雄に固く扉は口を閉ざす。」

後悔は扉の内と外に。

◆あらすじ◆
勝ち目の無い強敵と遭遇し、仲間を助けるため囮となって扉を閉ざした男が扉の前で悔い、生き残るため仲間を囮として扉の向こうに残した女が後悔する。ただそれだけの話。

本作は「扉の前で囮は悔いる。」と「扉の向こうに後悔の英雄は囚われて。」を合わせた話です。
三部作という訳ではなく、同じ設定の三つの作品があるといった感じです。

◇登場人物◇
私:シャノン。後悔している女。
俺:ニコラス。後悔している男。

 ◆◇◇◆

  閉ざされた扉に男がもたれかかっている。
  焚き火の前に腰掛けた女が夜空を見上げている。
  二人の居る場所は遠く遠く離れている。

俺:やはり、悔いがないと言えば嘘になる。
私:それは、後悔じゃないと言えば嘘だ。

俺:固く閉ざされた扉の前で俺はふと思った。
私:固く閉ざされた扉を前に私は口を閉ざした。
俺:勝てる筈がなかったんだ。
私:勝てる可能性は無かったのか?
俺:運悪く勝ち目の無い強敵と遭遇した俺達は、みんなで死力尽くして戦って、そして散々に敗走した。
私:それがきっと運命、これまでのツケだったのだろういとも容易く敗走した私達に与えられた選択肢は二つ。

私:一つ。
俺:全員纏めてさようならか。

俺:一つ。
私:誰か一人がさようなら、だ。

俺:答えは簡単。俺は喜んでその役目を買って出た。
私:私にその役目を買って出ることは出来なかった。
俺:普段なら、憎まれ口叩いて顰蹙買うばかりの俺が、
私:普段なら、憎まれ口叩いて皆を鼓舞するあの男が、
俺:なんと珍しいことに、囮になってみんなを逃がした。
私:なんということだろう、囮になっ私達を逃がすと言った。
私:「お前はそんなことを言うやつでは無いだろう!」
俺:「いやぁ、たまには良い子ちゃんしてないと罰が当たるってな」
私:「鎗でも降るんじゃ無いか?」
俺:「いやぁ、俺という存在に新しい可能性が開いた気がする」
私:しかし私は軽口も返せず、彼の提案にただ口を閉ざした。

俺:そしてそれ以外の扉を、自らの道を閉ざしたのだ。
私:そしてそれ以外の扉も、自らの心も閉ざしたのだ。
俺:ああ、分かってる、生きて帰れるだなんて思っていない。
私:ああ、分かってたさ、生きて帰れるだなんて思っていない。
俺:命を賭けて、そしてそのまま果てゆく運命と。
私:命を賭けて、そして運命を変えるため果てる。
俺:俺の命一つで未来が繋がるなら安いものと。
私:彼の命一つで未来が繋がるなら安いものと。

俺:俺はそう思っていたのだ。
私:いいや、自分の命が繋がるなら安いものと。
私:私はそう思ったのだ。
1/8

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム