the end
the end
ダリア
リリン
ゴシックなドレスに身を包むダリアが、樹の枝を編んだハンモックで本を読んでいる。本のタイトルは「the end」空いたままの鳥籠が揺れ、大理石の石畳の隙間からは植物が逞しく覗いている。硝子張りの天井は白の鉄骨で複雑に組まれ、アーチ上に張り巡らされ、雲が硝子越しに流れている。幾何学的に水路が床のあちこちに巡り、栄養を受けとるように様々な植物が自発的なフォルムで自生している。そこにやってくる、黒のゴシックで日傘を差すリリン。日陰に入り、硝子越しの空を眺めている。_鳥が一羽、リリンの指に止まる。
リリン「餌は無いよ」
ダリア「(本を読みながら)何時から居たんですの?」
リリン「今しがたさ」
ダリア「退屈です」
リリン「そうだろうと思ってね」
ドオン、と遠くから音がして、鳥が飛び立つ
リリン「また1つの記憶が崩れたかな」
ダリア「どうでもいいですわ」
リリン「君のだったりして」
ダリア「だとしてもよ」
リリン「怖くはないかい」
ダリア「愚問ね」
リリン「そうだね」
ダリア、本を閉じ
ダリア「ね、太陽は見つかりました?」
リリン「無いね。相変わらず1つだ」
ダリア「つまらないわ。普通すぎて。」
リリン「普通を決めてくれる人はもう居なくなってしまったからね。」
ダリア「あら、じゃあ、普通じゃないってことにすればいいのかしら。」
リリン「そうだね。太陽が1つなのは、異常だ。」
ダリア「ふふ、それは愉快ね。ね、リリン。じゃあ、終わってしまったものがまた始まるのは普通?」
リリン「それも異常だね_この、僕らにおいては_まぁ、どちらもいいかもだけど。」
ダリア「煮え切らなさは普通よ。反省して。」
リリン「反省の行き先が見当たったらね。」
ドオン、と音が
ダリア「あなたの記憶かもよ。リリン。」
リリン「僕の記憶だったらいいな。」
ダリア「思うところあるんですの?」
リリン「何も思い出したい事なんて無いよ。思い出せば、過去は今の持ち物になる。これ以上何かを背負うつもりもないよ。」
ダリア「でも」
リリン「でも?」
ダリア「退屈ですわ」
リリン「そうかもね」
ダリア、再び本を読む。
リリン、空を見ている。
リリン「鳥はいいね」
ダリア「あら。らしくないこと。自由の無い世界では無いのに。」
リリン「鳥は不自由さ。空しか飛べないんだ。僕は、そういうのでいい。」
ダリア「めんどくさい人」
リリン「その本、何回目?」
ダリア「忘れたわ。思い出す前に、形になるから。」
リリン「記憶を量産すると、どんどんゴミが増えてしまうよ。」
ダリア「大丈夫よ。土に還るから。どんどん。」
リリン「還るといいけどね」
ダリア「還るわよ。私だもの。」
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