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馬か、鹿か。

馬か、鹿か。
　
　　　　　　　　　　　　《取調室》
　　　　　　　　机には受話器が置いてある。
　　　　　　　　有馬、椅子に掛けている。客席側を見ている。
　　　　　　　　大鹿、メニュー表を持ってくる。
　
　大鹿　　　じゃあ、有馬くん。これ。
　有馬　　　なんですか。
　大鹿　　　メニュー。何か頼みたかったら、頼んでもいいし、別に頼まなくてもいい。
　有馬　　　やっぱりあるんですね、カツ丼。
　大鹿　　　何か困ったことがあれば、すぐに言って欲しい。
　有馬　　　あ、じゃあ。
　大鹿　　　なにかな。
　有馬　　　奢ってくれたり。
　大鹿　　　知ってるだろ、俺がそれやっちゃうと。
　有馬　　　冗談ですよォ。
　大鹿　　　冗談ならよしてくれ。言いたくないことは言わなくてもいい。
　有馬　　　それにしても、この部屋。随分と明るいんですね。
　大鹿　　　明るい、か？
　有馬　　　なんかこう、もっと暗いイメージあったんですよ。
　大鹿　　　あぁ。今は明るくないと、顔や表情なんかが、よく見えないから。
　有馬　　　なるほど。なんか、昔もそんなこと言ってたみたいですね。
　大鹿　　　……昔？
　有馬　　　──あの、おかめ蕎麦ってなんですか？
　大鹿　　　おかめ？
　有馬　　　ほら、メニューに。納豆でも乗ってんのかなぁ。
　大鹿　　　おかめ納豆が？
　有馬　　　でなきゃ、ソースがかかっているとか。
　大鹿　　　そりゃ、オタフクだろう。
　有馬　　　おかめと、オタフクって。何が違うんですか。
　大鹿　　　あー。おかめ蕎麦って言うのは、色んな具材が、おかめの顔みたいに蕎麦の上に置いてあるんだよな。
　有馬　　　福笑いみたいに？
　大鹿　　　かまぼことか、シイタケとか、ナルトとか乗ってたかな。
　有馬　　　ナルトは、やっぱりほっぺたに？
　大鹿　　　店によって違うけど、この店はそう。
　有馬　　　じゃ、椎茸は目に。
　大鹿　　　椎茸が目……？
　有馬　　　言うじゃないですか。椎茸みたいな、キラキラした目って。
　大鹿　　　え……よく分からん。とにかく、その店は違う。
　有馬　　　じゃ、何が目なんです。
　大鹿　　　湯葉。
　有馬　　　湯葉？
　大鹿　　　湯葉。
　有馬　　　湯葉が。
　大鹿　　　湯葉だ。
　有馬　　　どうなって……？
　大鹿　　　こうなって……。
　有馬　　　無理があるでしょう。湯葉が目は。
　大鹿　　　俺に言うなよ。
　有馬　　　じゃ、かまぼこは。どこに行ったんです。
　大鹿　　　そんなに気になるなら。
　有馬　　　椎茸は。耳ですか、鼻ですか。
　大鹿　　　頼めばいいじゃないか。
　有馬　　　でも、湯葉と椎茸とカマボコとナルトって。組み合わせ悪くないですか。カマボコとナルトで練り物被ってるし。
　大鹿　　　じゃあ無理に頼まなくてもいいんだぞ。
　有馬　　　いや、お腹は減ってるんで、頼みたいんですけどねぇ。これ、ここで作ってるんですか？食堂で？
　大鹿　　　いや、出前だよ。
　有馬　　　あぁ、出前館。
　大鹿　　　いや、出前。

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