十字路のお茶の会
──どこかで間違ってしまった私たちへ──
   「十字路のお茶の会 ──どこかで間違ってしまった私たちへ──」

    このお芝居は、終わりを命じられた放課後に、私たちが読点を打つ芝居です。
    ありふれた学校生活の笑いの中に、不条理と問いを忍ばせています。

☆登場人物(性別不問)
亜利子(ありす)    図書室常連。観察魔。感情は淡々、言葉は鋭い。「行間」を読              むような存在。冷めて見えるが、最後に「続行」を選ぶ芯を持          つ。
三月うさぎ      演劇部。遅刻魔。体育ジャージにウサ耳フード。軽口と即興の          天才。生活感ネタ(購買・追試・メモ紙など)を担当。
            家庭不和や孤独の影を持つが、言葉で「丸くする」能力がある。
            終盤、声や演技の強さで「光の残滓」を担う。
せいうち      水泳部。日焼け、情に弱い。体力派だが発言は哲学的なボケに          なりがち。「水」「涙」「冷たい/ぬるい」イメージと結びつく。
            内心の弱さを告白しつつ、最後には「泳ぎ続ける」と宣言する。
帽子屋           美術部。奇妙な帽子を自作してかぶる。言葉遊び、論理のねじ          れを楽しむ。「修理」「工夫」「芸術」を通して続行の理由を見              つける役。作中で「言葉の修理工」を担い、不条理性を演出す          る。
ジャヴァウォッキー    不登校気味の同級生。静かな「句点」。終わりを運ぶ存在だが、          悪意はない。物語全体の「区切り」として登場。冷たさの中に          優しさをにじませる。
赤の女王(声)     校内放送の声。命令だけ置いて去る。権力と評価の象徴。終盤          で「終了」を命じるが、それは不条理で匿名的な支配。
☆舞台
場所           校舎裏の十字路(体育館通路と裏門へ続く細道の交差点。
装置           下手に壊れかけたベンチ、上手に古い防犯灯。奥に古い部室棟          や雑木林。中央には家庭科室から借りた丸テーブルにテーブル          クロス。 紙コップの紅茶、半額シール付きフルーツパック(苺          ・ぶどう)、家庭科室の花瓶にしおれた花。
音            遠くから部活の掛け声やボールの音、購買部の呼び込み、放送          部のテスト放送などが時々入る。
衣装           全員制服ベース。小物でキャラクター性を足す(帽子屋の帽子、          三月うさぎのパーカー、せいうちのタオルなど)。

☆Ⅰ 十字路の開幕

        夕方。防犯灯はまだ消灯。サッカー部の掛け声「イチ・ニ・サン!」、            金属バットの音。吹奏楽部が基礎練習で同じフレーズを何度も繰り返す。        昇降口チャイムは鳴るが、なぜか「昼休み終了」の合図。プリントが数        枚、風に舞い、一枚はいつまでも落ちず空中を漂っている。)
        下手のベンチに、亜利子。紙コップを見つめ、カップの縁を指でなぞる。        横には、しおれた花と落書きされた数学プリント。)

亜利子   ……ぬるい。購買の紅茶って、熱くも冷たくもない、この責任取らない感じ。(小  さく笑う)自販機のボタン押し間違えたときの味。

        プリントを指で押さえ

亜利子   テストもそう。満点じゃないけど赤点でもない。何者でもない点数。

        間。

亜利子   だれか、責任の取り方を教えて。……いや、保健室の先生に聞いたら「水分補給  しなさい」って言われそう。

        自転車のブレーキ音が遠くでキィィ。三月うさぎ、ジャージ姿で走り込        む。片足の靴下が赤白帽子みたいに裏返っている。

三月うさぎ 遅刻じゃない! 早すぎでもない! だから、今だっ!
亜利子   ……購買の焼きそばパンの話?
三月うさぎ (息一つで苺をひょい)それ。あと五分で半額シール貼られるタイミング。    この世界の幸福の黄金比。
亜利子   幸福が安売りされる校内……資本主義が校則を着ている。
三月うさぎ (ポケットからくしゃくしゃのプリントを引っ張り出す)げっ、数学追試の    プリント。俺のポケットの方が“赤点危険区域”だわ。
亜利子   それ、もはや遅刻の一種。時間じゃなく知識が遅れてる。
三月うさぎ (にやり)でもさ、追試って本番より緊張しないんだよ。緊張が二回に分割    払いされるから。
亜利子 分割払いの利子は……ため息と徹夜。

        三月うさぎが笑って肩をすくめる。その背後から帽子屋、ゆっくり登場。        手元の帽子を45°に調整。帽子の縁には「返却期限」と書かれた図書            館カードが安全ピンで留められている。

帽子屋   お茶を淹れ直したい。が、時間は壊れている。だから代わりに、会話を淹れよう。  抽出時間は各自の集中力。
三月うさぎ あんた、さっき美術室で石膏像に落書きしてただろ。鼻の下にヒゲ描いた犯    人。

帽子屋   それは修復作業だ。芸術とは、退屈を修理すること。……ちなみに消しゴムで直  そうとしたら石膏が欠けた。歴史的損失。
亜利子   歴史的損失が十五分で発生する学校。……まぁ日常か。

        せいうち、タオル首に。制服の袖がまだ濡れていて、靴下も片方だけ色        が違う。ペットボトルを置く音。

せいうち 集中力は泳ぐと薄まる。今日50mベスト出たけど、だれも見てないベストは        ……(考える)まぁ、ベストだ。

三月うさぎ 見てなくても、記録は記録。青春はレシートが出ないのが不便。
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