『リベラリズムな恋愛を。』
『リベラリズムな恋愛を。』
登場人物
山本 佳穂(やまもと かほ)
三浦 春樹(みうら はるき)
女子大学生A
男子大学生B
アナウンサー(声のみ)
女子高校生A、B
アナウンス(声のみ)
(舞台は少し混んでいる電車の中。佳穂はヘッドホンを付けて本を読んでおり、吊革につかまっている。女子高校生二人は佳穂の隣に立つ。春樹もヘッドフォンを付けて吊革をつかんでいる。)
アナウンサー:続いてのニュースです。先日、女優の松井梨乃さん(26歳)が結婚を報告しました。お相手は一般女性とのことで、松井さんのSNSでは左手の薬指に指輪をはめた松井さんの写真と共に、ファンへの感謝が綴られています。それでは、続いてのニュースです。SNSで批判殺到中の「リベラリズムな恋」という小説が注目となっています…
―佳穂がヘッドフォンを外すー
女子高校生A:ねぇ、知ってる?異性愛を肯定するあの炎上小説!
女子高校生B:知ってる、知ってる!異性同士の恋愛なんて共感できない。気持ち悪いよねー。
アナウンス:次は南鎌池(みなみかまち)駅、南鎌池駅。お出口は左側です。
―佳穂と春樹が電車から降りる。改札に向かって歩いていると春樹がハンカチを落とし、振り返った矢先に佳穂とぶつかり、佳穂の持っている小説が落ちるー
春樹:ああ!すみません!ぶつかっちゃって…
佳穂:私もすみません!前方不注意でした…。
春樹:いやいや、俺が急に振り返ったから…。大丈夫?手、貸すから。ほら。
―春樹が手を差し伸べ、沈黙が流れる―
春樹:…あ、あのー?
佳穂:あ、い、いえ!ありがとうございます!
春樹:落とし物、俺が拾うね。
―春樹が小説を拾い、タイトルを見ながらー
春樹:(ゆっくり)「リベラリズムな恋」?
佳穂:…うん?どうかしましたか?
春樹:ああ!ごめんね!はい。
―春樹が小説を渡す。佳穂が受け取る際に一瞬、お互いの手が触れるー
佳穂:あ…。(手を気にする)ありがとうございます…! では、失礼します。
春樹:(佳穂の背中を見つめ)「リベラリズムな恋」…。今朝のニュースで言ってたやつか。誰もが、同性愛こそが健全だと思っているこの社会で、こんな本を読んでいるなんて…。興味深い子だな。
(舞台は大学校内のベンチ。舞台中央で佳穂が一人ベンチに座って小説を読んでいる。春樹はビニール袋を持って舞台袖から現れる)
春樹:やっと昼休憩か。疲れたー…。どっか座れるところは…。
―春樹が佳穂の座っているベンチを見るー
春樹:あそこぐらいか。すみません。お隣失礼します。
佳穂:あ、はい。どうぞ。
春樹:…って、朝の!
佳穂:あ、ああ!先ほどの!
春樹:急にぶつかってしまってすみませんでした!
佳穂:いえいえ、こちらこそ。ありがとうございました。隣、どうぞ。
春樹:ありがとうございます。失礼します。
―春樹が佳穂の座っているベンチ端に座り、微妙な距離がある。春樹は気まずそうに顔を動かす。―
春樹:(話題を探すように)そういえばさ!女優の松井梨乃さんの結婚、めでたいよね!お相手はまさかの一般女性!
佳穂:(冷静に)そうですね。おめでたいです。
春樹:そう、だね…。(焦るように)あ!そ、その小説!『リベラリズムな恋』だよね!面白い?
佳穂:…なんとも言えないです。
春樹:…そ、そっかー。何とも言えないかー…。
佳穂:この小説は同性愛も異性愛も肯定するような内容なんです。
春樹:あ〜。知ってるよ。世間からしたら普通じゃないよね。
佳穂:え…?「世間からしたら」?
春樹:うん?どうかした?
佳穂:あ、いえ。そうですよね。同性愛が当たり前の社会で、異性愛も肯定されるなんて非常識だし、おかしいと思うんです。でも…。
春樹:でも?
佳穂:読み進めていくうちに、思うんですよ。同性愛も異性愛も何も変わらないんじゃないかって。
春樹:え?!いや、でも「同性愛が正しい」って世間は言うじゃん?だから、何も変わらないことは…ないんじゃないかな…。
佳穂:そ、そうですよね…。だって…
―女子大学生A、男子大学生Bが舞台袖から現れ、佳穂たちには聞こえる声で話し始める。―
女子大学生A:ねぇ、見た?昨日の異性愛のニュース!やっぱり異性のパートナーなんてダメだね!痴漢とかセクハラとかするのって異性愛者に多いってデータもあるし!
男子大学生 B:遠藤の奴、異性の奴と付き合ってたらしいぜ?結局浮気されたってさ。馬鹿だよなー。異性愛者なんて皆、我儘で自己中だから浮気するに決まってんのに。
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