光の在処
光の在処           著 KESHI
登場人物
    •    未月(みつき):高校2年生、17歳。人生に絶望している
    •    原田 尊(はらだ たける):28歳、カフェ店員。明るく楽観的
    •    教師(声のみ)
    •    クラスメイト数名(台詞なし、または最小限)
舞台設定
小さなカフェ。古びているが温かみのある空間。舞台中央にカウンター、下手にテーブル席が二つ。上手には窓を模した照明。
第一場

(暗転。スポットライトが未月を照らす。制服姿で、肩を落として歩いている)
未月:(独白)灰色だ。世界が、全部灰色に見える。朝起きて、学校に行って、帰って、寝る。その繰り返し。何のために生きているのか、わからない。(間)みんなは笑っている。友達と話して、恋愛して、夢を語って。でも、私にはそれが全部、遠い世界の出来事に思える。
(教室の照明。クラスメイトたちが笑い合っている様子が影絵で表現される)
未月:私だけが、ガラスの向こう側にいるみたい。触れることができない。声も届かない。(長い間)死にたいわけじゃない。ただ、生きている実感がないだけ。
(暗転)
第二場「偶然の出会い」
(カフェの照明。カウンターの奥で原田が笑顔で客に対応している。未月が入ってくる)
原田:いらっしゃいませ!おひとり様ですか?
未月:(小さく頷く)
原田:窓際の席、空いてますよ。景色がいいんです。(にこやかに)
未月:(無表情で)別に、どこでもいいです。
原田:そっか。じゃあ、こちらのテーブル席へどうぞ。ご注文が決まったら声かけてくださいね。
(未月、席に座る。メニューを見るが、視線は虚ろ)
原田:(カウンターで独り言のように)今日は天気いいなあ。こういう日は、コーヒーが美味しく感じるんだよね。
未月:(小さく)ホットコーヒー、ください。
原田:はい、かしこまりました!(明るく)ブレンドでいいですか?それとも、今日のおすすめは酸味控えめの深煎りなんですけど。
未月:…何でもいいです。
原田:じゃあ、深煎りで。絶対気に入ってもらえると思うんだ。(にっこり)
(原田、コーヒーを淹れ始める。未月は窓の外をぼんやり眺めている)
原田:(コーヒーを持ってきて)お待たせしました。熱いから気をつけてくださいね。
未月:…ありがとうございます。
原田:(少し間を置いて)あの、失礼かもしれないけど、学校帰り?
未月:(警戒するような目で)…はい。
原田:大変だよね、高校生って。僕も昔は毎日必死だったなあ。
未月:…別に。
原田:(笑って)そっけないなあ。でも、それでいいんだよ。無理に話さなくていい。ゆっくりしていってください。
(原田、カウンターに戻る。未月、コーヒーを一口飲む。少し目を見開く)
未月:(小さく)…美味しい。
原田:(聞こえたように振り返って)でしょう?このコーヒー豆、僕のこだわりなんです。
(暗転)

第三場

(数日後。同じカフェ。未月が同じ席に座っている)
原田:あ、また来てくれたんですね。ありがとうございます。
未月:…ここ、落ち着くので。
原田:それは嬉しいな。今日も深煎り?
未月:はい。
原田:了解です!
(原田、コーヒーを淹れる。未月はカバンから本を取り出す)
原田:(コーヒーを持ってきて)何読んでるんですか?
未月:…太宰治。
原田:ああ、人間失格とか?
未月:はい。共感できるから。
原田:(少し表情を曇らせて)そっか。辛いんだね。
未月:(顔を上げて)…何がわかるんですか。
原田:うん、わからないかもしれない。でも、そういう本に惹かれる気持ちは、少しわかる気がする。
未月:あなたみたいに明るい人には、絶対わからない。
原田:(穏やかに)そう見える?
未月:見えるも何も、ずっと笑ってるじゃないですか。
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