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僕の家に住んでください

『僕の家に住んでください』

人物
　男
　女
　玉葱（男）
　新玉（男）
　青子（女）
　鞠子（女）
　ライフセーバー１
　ライフセーバー２
　ライフセーバー３
　王子様（女）
　狐（男）
　
　※男・玉葱、女・青子、ライフセーバーのどれかを王子様と狐、とあてて演じた場合に男3人女3人不定1人の総数7人となります。

　　喫茶店。シャンソンなんかが流れていて、後ろのほうにはまさに背景と言った数組の客が居て、そしてまたまさに背景のようなウエイターがカップを運んでいる。コーヒーの香りが、心地よい。
　　するとなぜか、パジャマを着た寝癖甚だしい見知らぬ男が出てくる。私は彼を玉葱と呼ぶ。玉葱はサスに入り、床に座り込む。すると、胸のポケットからタバコを取り出し、カリカリとフィルムをはぐところから始める。フィルムをはがせなくて、彼はとりあえず客席のほうを向いて、笑う。

玉葱　どうも。本日はご来場いただきましてまことにありがとうございます。ありがとう、ございます。

　　玉葱に当たっていたサスが消えていく。玉葱は薄暗い中で、先ほどの作業の続きをはじめる。そんななか、喫茶店のムードが戻ってきて、シャンソンの音が大きく聞こえ始める。が、それを破るように声が……。

女　（袖のほうから）　ちょっと！　あんた、どこまで甘くすれば気が済むのよ！

　　そんな悲鳴が響き渡る。すると、テーブルが倒れた音がし、しかも盛大にカップやシュガーポットまで割れたようで、コーヒーの香りが漂いシャンソンが流れる洒落た喫茶店の雰囲気は、台無し。（ハンガリー舞曲なんかが流れてくる。）
　　その場に居るものたちは混乱のさなか踊りだしたりして、本当に喫茶店の雰囲気はめちゃくちゃ。

女　（何かを振り払うように）あぁっ！　（ややあって）……コーヒーに砂糖を何杯入れるか、そんな話題で一晩中話していられるほど仲睦まじいカップルだった私たちの恋に水を差したのは、ほかでもなくそのコーヒーに入れた砂糖でした。

　　と、女が話しはじめると、皆は動きを止め、静まり返る。（じわじわと、ラヴィアンローズが聞こえてくる）

女　実際差したのは水ではなくて砂糖なんだけれどそのコーヒーにはミルクは入れなかったわ、だってミルクを入れたらコーヒーが薄くなるじゃない。いいのよコーヒーが薄くなったって私たちの恋は薄くならないもの！　（突然切れて）……うぅうあああぁぁー！　砂糖は二つって勝手に決め付けるのは許容できても、話に夢中になって六つも七つも無意識に砂糖入れられたら、いくら甘党の私だって無理よ！

　　女の叫びは、しばし、部屋を埋めた静かな空気を乱している。
　　やがて、先ほどのフィルムをあけることに成功した玉葱が、タバコをトントンと一本箱から出し、……出せなくて手間どりやっとのことで一本出して、それを右手でもてあそびながら客席に向かって笑う。女はいつの間にかいなくなっている。

玉葱　どうも……。で、いいですか。この部屋はね、大体禁煙なんですよ。いいんです、いいんです。私、吸いませんから。え？　……スイマセン。見せかけですよ。大人の男はタバコの一本でも似合うようにならないといけないって、父が言うもんですからね。スイマセン。吸いませんよ。

　　柱時計が、６回、音を鳴らす。すると玉葱の息子、新玉が出てくる。新玉は麦藁帽子をかぶり、黒いＴシャツを着て、半ズボンを穿いて、手に提げたバケツにはちっちゃな熊手みたいなものやシャベルが入っている。もう片方の手には風呂敷に包まれた重箱様のお弁当箱を持っている。

新玉　お父ちゃん！　ここで何してるのさ！　今日は潮干狩りに連れて行ってくれるって約束だろ！？　もう６時だよ、早く行かないと日が暮れちゃうよ！
玉葱　あ、あぁ息子よ。おはよう。
新玉　お父ちゃん！　あぁ息子よ、おはよう、じゃないよ！　もう６時なんだ、早く準備してよ！
玉葱　息子よ、そう焦るな、まだ６時だ。
新玉　もう６時だよ！　母様起きちゃうよ！　何のために僕が４時に起きたと思っているんだよ！
玉葱　早起きだなぁ、息子は。
新玉　お弁当だって自分で作ったんだ！　見てよ！

　　と、新玉は重箱をオープン。

新玉　見てよこの卵焼き！　母様よりも綺麗に巻けているでしょ！　なんたって僕は器用なんだから、母様なんかよりも卵焼きが綺麗に作れちゃうんだ。
玉葱　あぁ息子よ、上手だねぇ。

　玉葱は着替えを持ってきて、舞台の上で豪快に脱ぎ始める。

新玉　そして見てよこのエビフライ！　僕子供なのに一人で揚げ物したんだ！　そんなことはどうでもよくてさ、見て、綺麗でしょこのこんがり揚がった感じ！　こんなエビフライ、母様には作れないでしょ！
玉葱　全く危ないなぁ、一人で揚げ物なんて。息子は火災の怖さを知らないんだなぁ。

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