夏が来れば
「夏が来れば」・・どうしてもお芝居をしたい困った合唱部のためのお芝居・・
                               作:
                               
                               結城翼

★登場人物
新城夏子・・・海南学園高等科合唱部。元気で明るい。祖母を最近亡くしている。歌はあり上手ではないが大好きだ。
       コンクール至上主義にはなじめないでいる。
青木祐子・・・同。やや甘えのおじょうさん。くいしんぼでもある。
横山みどり・・同。横紙破り。男っぽい言葉遣い。けっこう極道かもしれない。
斉藤 忍・・・同。こわがり。SFやファンタジーが好き。ややていねいなしゃべり。
加藤通子・・・お節介系。軽い。

鮫島 修平・・海南第一中学校。元合唱部同好会員。勤労動員中。
八木慎一郎・・同。
鹿島 完治・・同。

田畑弥生・・・合唱部顧問。鬼の弥生で有名。結構、いってるかも。技術重視。コンクールで優勝することに執念を燃やす。体育系的なのりもある。
新城 操・・・夏子の祖母の姉。死亡。(夏子の二役)
人影1・・・・修平たちを追っかけている。
人影2・・・・同。
先輩A・・・・合宿に気合いを入れに来る。
先輩B・・・・同。
先輩C・・・・同
先輩D・・・・同
先輩E・・・・同








#1オープニング

       闇の中から歌が聞こえる。幕が上がると、真っ青な空。
       テラスに白い椅子とテーブル。木陰。そのあたりで三々五々、夏のさわやかな服装の麦わら帽子をかぶった清楚な少女たちが「夏が来       れば思い出す。」と合唱をしている。海南学園高等科合唱部の一同。一人、やや離れて歌っている新城夏子。
       演技などの邪魔にならない位置に伴奏用のピアノ。物語には全く関係なく独立してある。必要なときにBGM的に演奏される。
       やがて、一番を歌い終わりハミング。
        照明やや薄暗くなる。夏子にトップサスがあたる。語り始める夏子。

夏子 :私は夏子です。八月の夏の盛りに生まれたから夏子。何という手抜きな名前でしょう。まんまですよね。お母さんにそういったら、おばあち    ゃんがつけたのよって言いました。おばあちゃんと言っても正確にはおばあちゃんの姉さんで、一生独身を通したそうです。なんでも婚約者が    戦争が終わる前かおわった頃に亡くなったそうで、あの人も運が悪かったのよとお母さんは言ってます。結局そのままどこにもお嫁に行かず、    この春、心筋梗塞でなくなりました。病気一つしなかったので、まだまだ長生きすると思っていましたが、家の前の桜が雨で散った朝、桜と一    緒に眠るように息を引き取りました。生活のリズムが違うから小さいときと違ってめったに話しもしなかったけれど、それでもやっぱり気持ち    がしずんでしまいます。もちろん血がつながっているから何だろうけど、うまくいえません。それでということでは無いんですが、気分転換も    あって、この合宿に来ました。ああ、私、合唱部なんです。あまり上手じゃないけど、海南学園合唱部の一員としてまあまあやってます。夏の    高原っていいですね。なんだか小説か映画のシーンのようで、気持ちよく歌えます。

       再び「夏が来れば・・」のワンコーラス。終わったところへ、ぱちぱちと拍手して先生登場。

夏子 :先生・・。
先生 :はい。けっこう。けっこう。うまく高音がのびてたわ。あと、一週間だものね。がんばって行かなくちゃ。けど、欲をいうとだね。ちょっと    むらがあるっていうか。まだまだね。みどり、あなた昨日何か悪さしてたでしょう。のど少し痛めてるね。これでも(と、ビール飲むまねをす    る。)やってたんじゃない。
みどり:ぎくっ。
先生 :どう。
みどり:とんでもない。品行方正だよ。寝冷え、寝冷え。
先生 :そう。(と、冷たく。)祐子はちょっと音さがってるわ。気をつけて。
祐子 :はあい。
先生 :通子はね・・うん。
通子 :なんですか。
先生 :顔が悪い。なにその顔。
通子 :ひっどーい。
先生 :馬鹿っ。ルックスじゃない。表情。表情。
通子 :なんだ。
先生 :なんだじゃないの。歌うときの表情は審査の結構ポイントなのよ。わかってる。
1/29

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム