人魚の話
人魚の話 作・白神貴士
*一人芝居の台本として昔書き下ろした作品に少し手を加えた物です。
朗読劇でも良いかと思います。お金のある方なら是非映画に…(笑)
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俳優が一人舞台にいる。立っていてもいいし、座っていてもいい。
男 「それは、昭和の初めの頃、まだ太平洋でも中国でも、
未だ戦争が始まっていない頃でした。
私は大学 の講師を勤める傍ら、休みになると日本海の方まで足を伸ばして、
村里に残る民話や伝説を、土地土地の御年寄りに聞いて回り記録していたのです。
・・あれは能登半島の西側の小さな入り江の中にある寂れた漁村での事でした。」
大きめの手帳を取り出し鉛筆を舐めるしぐさ。客席を向いて。
男 「…で、おばあちゃん、それはいつごろの話だい?」
網をつくろうお婆さんに変わる。
婆 「わしのばあちゃに聞いた話だ…わしがまだ、こねえに小さい頃だ。」
つくろう手を止めて、手を座ったままの頭の高さに上げる。
婆 「そうさなあ、あれは秋の彼岸のことだったか、空が深い海のように青い日だった。
わしのばあちゃが空を見てため息をついた。『はあ〜っ…』てな。
それは大きな大きなため息だった。『ばあちゃ、一体どうした?』
わしは、そねえに聞いた。
『昔のことだ…』、ばあちゃはそれっきり黙りこんで、
今みてえに網の繕いを始めた。
けど、わしがあんまりじーっと見とったもんで(ば)『どうした?』
(子供になって)『昔、何があった?』(ば)『その事か。』(子)『うん』
…そうしてばあちゃは、この話を聞かせてくれた…。」
ここからは、ばあちゃの話。照明など変えた方がいいかも。
ば 「もう、わし以外は誰も知らんくらい昔の話だ。
冬の寒い朝、瓜が浜に小さな女の子が流れついた。
見つけたのはおまえのひいひいじいちゃだ。
すっかり冷えきって唇も紫色になっていたが、それはそれは可愛い女の子だ。
ただな…その女の子には足が無かった。
太股のあるところから先はまるでイルカか鮫のようにすーっと細くなって
ひれが付いとった。
じっちゃは驚いたが、ひいひいばあちゃとの間に子も無かったし、
『これは神様の御引きあわせだ。』そう、思った。」
抱き上げるしぐさ、家に急ぐ。
ばあちゃ、話の進行とともに各キャラの語りが芝居掛かり、
一人芝居状態に入ってゆく。
ひじ 『ばあさ、ばあさ!』
ひば 『どうした?こねえに朝早くから大声あげて。』
ひじ 『隣近所があるでもねえ、何かまうもんか!これだ、これだ!』
ひいひいばあちゃ、女の子に気が付く。
ひば 『あれ!どうした!こ、こりゃ一体…』
ひじ 『浜に流れ着いとった。わしが見つけた!わしらの子じゃ!』
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