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イルカショー

『イルカショー』

出演　　バイト（女）
　　　　館長（男）
　　　　職員（男）

バイト　館長、お呼びでしょうか。
館長　　君、水族館のバイトは、今日が初めてかね。
バイト　はい。
館長　　午前中、働いてみて、どうだった？
バイト　あぁ……まぁ、別に、楽しいですけど。
館長　　どこが！どう！
バイト　え……その、お客さんの笑顔が見られるんで。
　　　　　ゴミを回収しながら。
館長　　そうか。
バイト　はい。
館長　　……。
バイト　……あの、何か、まずかったでしょうか。
館長　　いや。君を呼んだのは他でもない。
　　　　　本日午後１時半からのイルカショーだが。かおるちゃんが，下痢を起こしてしまってね。
　　　　　急遽、代役を立てる必要が生じた。
バイト　それって、つまり……。
館長　　そう、君にイルカショーに出てもらいたい。
バイト　ちょっと待ってください！私、派遣ですよ。
館長　　そうだよ。イルカショーのステージに派遣するんだ。
バイト　そんなの聞いてませんよ。
館長　　今しがた、決まったからね。
バイト　勝手に決めないでくださいよ。
館長　　館長だから勝手に決めていいんだよ。
バイト　しかし、派遣会社からは、仕事内容は、清掃って聞いています。
館長　　清掃が水槽になっても問題ないだろ。
バイト　ありますよ。
館長　　一文字違うだけじゃないか。
バイト　一文字違ったら、全然違いますよ。
館長　　知ってるかい。山口県では、フグのことをフクという。
　　　　　しかし、同じものを指していてだね……。
バイト　違います！根本的に違うんです。
館長　　同じだよ、フグもフクも。
バイト　そっちじゃなくて、私の仕事内容ですよ。
館長　　じゃあ、イルカショーに出てくれるということだね。
バイト　ということに、どうしてなるんですか。私、無理ですから。
館長　　君、無茶言ってもらっちゃ困るよ。
バイト　無茶は、そちらでしょう？
　　　　　他の職員さんで、代役を立ててはいかがですか。
館長　　それは私が決めることだ。
バイト　でしたら、もっと賢明な判断をお願いします。
館長　　私の決断に狂いは無い。
　　　　　派遣会社から送付された君の履歴書には、高校時代、水泳部所属と書いてある。
　　　　　泳げるんだろ。
バイト　えぇ。まぁ、泳げますけど。
　　　　　でも、イルカショーは、わけが違いますよね。
　　　　　私、イルカの扱い、さっぱり分かりませんけど。
館長　　大丈夫。イルカの扱いは、担当がいるから。
バイト　え？
館長　　バタフライは、泳げるよね。
バイト　ええ。
館長　　ドルフィンキックはできる。
バイト　はい。もちろん、できます。
館長　　じゃあ、ばっちりだ。君を今日だけ、イルカに認定する！
バイト　……はい？イルカ？

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