もうひとつの若葉を
【 一 】

 辺りは暗く、ライトを持った神楽がおそるおそる舞台中央へやって来る。
 ぐるりと見渡し、誰も人が来ないのを確認してから、舞台中央奥にある暖炉の上にライトを置く。
 暖炉の上部に飾られている油絵が浮かび上がる。
 神楽、客席側へ振り返る。

神楽「あるひとつの物事は、見る視点を変えるだけで無数の物語を生み出す。
けれど、その華々しいカケラの中で、真実はたったひとつ。
しかし、星の数程もある物語の海でたったひとつを取り出し、何を基準にそれを『真実』と言うのだろうか?
結局、見た者が真実と信じたものが『真実』となる。それはつまり、人の数だけ『真実』が存在するのだ。
これからお見せするある事件には、いくつかの物語が付随している。
その中で、貴方は本当の『真実』を見出せるでしょうか?
どうぞ、足元に気を付けて。物語の中に仕掛けられた策略と誘惑に惑わされぬよう、ご注意ください」

 神楽はナイフを取り出し、それを顔の前でかざしてから、後ろへ振り返る。
 油絵に近づき、ナイフを持った手を振り上げる。



【 二 】

 ゆかりの部屋。
 ゆかりはデスクでノートパソコンに文字を打ちながら、イライラしている。
 神楽はうろうろしながら、部屋の掃除をしている。

 ゆかり、手元にあるマグカップを取り、口へ運ぶ。

ゆかり「(一口飲んでから)うわ、甘!神楽、何コレ。私はブラック派だって知ってるでしょ」

神楽「糖分補給。先生、眉間に皺が寄ってるよ」

ゆかり「大きなお世話。コーヒーくらい好きな味で飲ませてよ。淹れなおして来て」

神楽「駄目です。これは全部飲みきって下さい」

ゆかり「あんた、私に逆らう気?」

神楽「先生の体調管理も、俺の仕事ですから」

ゆかり「うざったいなあ。あんたのそういう、頼んでもないのにお節介な所、大っ嫌い」

神楽「俺は先生のそういう、感情をストレートに表現する所、尊敬してますよ」

ゆかり「そりゃどうも。嬉しくもなんともないけど(コーヒーを飲む)」

神楽「先生、俺と旅行しませんか?」

ゆかり「断る」

神楽「良い気分転換になりますよ。そしたらきっと、次回作が書けますって」

ゆかり「…なんで、今私が適当に文字を打っているだけで何も書いてないって分かったの?」

神楽「長い付き合いになりますから」

ゆかり「(ため息)………」

神楽「行きましょうって。高原のペンション。空気が澄んでいて気持ち良いですよ。リスさんに会えるかも」

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