あなたを忘れない。シーンはやや長い。

 明転すると、中央に女1。
 女の視線の先には、男1が微笑んで立っている。
 物語はすでにクライマックス。感動的な音楽が流れている。

女1 やっぱり、あなただったのね。

 男1、微笑みで答える。

女1 見えなくても、ずっとあなたのことを感じていた。あなたがそばにいるって、ずっとわかってた。
男1 君のことがずっと気がかりだった。事故で体を失って、魂だけになった後も、ずっと君を見ていた。君のことがずっと心配だった。
男2(声) まゆみー、まゆみー!

 男2、飛び込んでくる。
男1の姿を見て、絶句する。

男2 ケンジ……?
女1 ね、言ったとおりでしょう?
男2 お前、本当にケンジなのか? だってケンジは事故で……。
女1 あなた、私のこと信じてるって言ったじゃない。
男2 信じてる。もちろん信じてるさ。でも……改めて目の当たりにすると、やっぱり驚くな。
男1 カツヤ、今はお前がまゆみの傍にいてくれるんだな。
男2 お前には勝てないよ。……死んだ奴はいいよな。お前はまゆみの中で、ずっと良い思い出のままだものな
男1 俺はお前がうらやましいよ。本当にまゆみの傍にいられるのは、この世でお前ひとりなんだから。
女1 ケンジ……。

 男1、遠くを見つめる。

男1 おっと、どうやらお迎えが来たみたいだな。
女1 ケンジ……?
男1 ごめんまゆみ、俺はもう行かなきゃ。
女1 待って、ケンジ。
男1 まゆみ、これは定めなんだ。
男2 待てよケンジ、もう少しだけいられないのか?
男1 カツヤ、今ここに俺がいられるのが奇跡なんだ。でももう奇跡もおしまいだ。俺は行かなきゃいけない。みんながいずれ行くべき場所へ。
女1 私も行くわ。
男1 まゆみ。
女1 私もつれてって。私、あなたと一緒ならどんなところだって怖くない。
男1 君もいつか、俺と同じ所へこられるさ。
女1 あなたと離れたくないの! ……お願い、私を一緒に連れてって。
男1 まゆみ……僕のことを愛してくれているかい。
女1 愛してる。今でもずっと。
男1 なら君は生きるんだ。僕の生きられなかった世界で、僕の分まで、僕以上にこの世界を、君の周りを愛してほしい。それこそが、僕の望みだ。君に望む最後の希望だ。
女1 ケンジ……。
男2 へっ、やっぱ死んだ奴には叶わないな。勝手にやってろってんだ(背を向ける)

 男1、女1、抱き合う。
 光が強くなり、感動的な音楽が盛り上がる。

男1 おっと、せっかちな天使たちがお呼びだぜ。行かなきゃ。
女1 私、ケンジのこと、忘れない。ずっとずっと、忘れないから。
男1 俺も、離れても、君のことを見てる。ずっとずっと、君のことを見てる。
女1 ダンスパーティの時みたいに。
男1 (照れる)覚えてたのかよ。
女1 あの時から、二人は一緒だった、どんなにつらい時でも、大変な時でも。
男1 ああ、そうだった。あの時から俺はお前を見ていた。
男2 へっ、まったく、叶わないな。
女1 踊って。
男1 ここでか?
女1 あの日のダンスパーティのように、もう一度だけ、あなたと踊りたい。
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