一つの願い 〜夏陰〜
一つの願い 夏陰

      作 こぶたにのる
登場人物
      女
      男
      精



      中央に女が一人 座っている
      じっとコーヒーカップをのぞいている

 

女   テーブルの上のコーヒーカップ
    覗き込む
    ほのかに赤みがかった黒が
    私の息か
    風もないのに揺れる
    いつの間にか大人と言われる歳になった
    苦かっただけのコーヒーを美味しいと思う
    私だけが歳を重ねる
    高校のときに はやったおまじない
    私の指はカップのふちをゆっくりなぞる
    コーヒーカップのふちを3回
    指でなぞり息を吹きかけると願い事がかなうという
    そんなことを信じていた
    そんな自分がいとおしかったのかもしれない
    卒業と同時にそんなこと
    校舎に置いてきてしまった
    でも時折思い出しては
    カップのふちをなぞってみたりする    
    今ではそんなことあるわけないと知っているのに
    それでも私の指はカップのふちをゆっくりなぞっている
    昔の思い出 夏の影
    その影を私は今も追っている
 

      
      いつのまにか目の前に男が座っている

 

男   まじで ぜんぜん知らんかったわ
女   まじまじ うちら みんなやってたもん
    ほんと 流行ってたな
    願いがかなうって
    コップ見たらみんな息吹っかけて
    指 くるくる回してさあ
    4人でテーブルに座ってたら
    みんな くるくるくるくる
    紙コップでもやってたよ
男   ばっかだな
女   だよね
男   あーでも なんか 見たことあるわ
    それやってる 女子
    一つだけ願い事がかなうか
    そういうことだったんか
女   じゃあさ あんただったら どうする 
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