ビル
Aがビルから飛び降りようとしている。
そこにBが駆け込んできてAの脚に飛びつく。
体勢を崩して内側に倒れこむAとB。

B「死んじゃ駄目だ!」
A「お前のおかげで死ぬところだったよ!」
B「メール見たよ。『俺の借りたDVD代わりに返しといてくれ』って……。死んじゃ駄目だ!」
A「どうしてそうなった!」
B「『俺は自殺するけど、死んだら借りてたDVD返せなくなっちまうから、俺の代わりに返しといてくれ』ってことだろ?」
A「そうだけど……」
B「死んじゃ駄目だ!」
A「想像力が凄い!」
B「お前が死んだら悲しむ人がいるだろう!」
A「……っ! ……いねえよ、そんなもん」
B「ええと……お、おばさん、とか……おじ、さん……とか?」
A「何で自信ねえんだよ!」
B「オバマとか!」
A「大統領!?」
B「田中さんとか!」
A「誰だ!」
B「吉田さんとか!」
A「だから誰だ!」
B「美代子ちゃんとか!」
A「誰だよ!」
B「美代子ちゃんお前のこと好きなんだよ!」
A「知らねえよ!」
B「こんなにお前のことを想っている人たちがいるんだぞ!」
A「大半知らねえ奴らだったよ!」
B「とにかく死んじゃ駄目だ!」
A「……俺のことなんか放っといて――」
B「何で死にたいんだよ」
A「聞けよ」
B「どうして自殺なんかしたいんだよ。理由は?」
A「……別に、話すようなことじゃねえよ」
B「話してみろよ」
A「下らねえ理由だよ」
B「借りたDVDがつまらなかったから死にたいのか?」
A「さすがにそこまで下らなくねえよ」
B「水虫が痒いから死にたいのか?」
A「水虫じゃねえよ!」
B「加齢臭!?」
A「してない!」
B「何なんだよ、全然分かんねえよ」
A「少しは真面目に考えろよ」
B「何か悩んでることがあったら相談してくれないか。俺馬鹿だからお前が何で苦しんでるのか分からない。だから聞くだけしかできないけど、でもお前が辛くて挫けそうな時、すぐ傍にいて倒れそうな肩を支えたいんだ」
A「……急に真面目になるなよ」
B「聞かせてくれないか? 理由」
A「……」
B「誰かに話したら、少しは楽になるかも知れないし」
A「……死にたいっていうか、生きてても仕方ないなって思ってさ。生きてても明るい未来なんて見えてこないんだよ。所詮俺の価値なんて五段階評定で表されるものなんだ。親父やお袋だって通信簿は穴が開くほど睨みつけるのに、俺には一瞥も寄越そうとしやしない。俺が生きていることに価値なんてあるのか? そう思ったら何だか急に空しくなって、俺が死んだらどうなるのかなって、俺がいなくなった世界はどうなるのかなって、見てみたくなったんだ。いや、どうせ何も変わらないんだろうけどさ、でも……(舟を漕ぐBに気付く)。おい、聞いてるか?」
B「……えっ、あっ、うん。大丈夫大丈夫、聞いてるよ! それで?」
A「でもな……。(また舟を漕ぎだしたBに)おい」
B「はっ。……聞いてるったら。続けて」
A「でも……。(また舟を漕ぎだしたB に)おい」
B「起きてるったら!」
A「まだ何も云ってねえよ! ……はあ。はい、以上。理由の説明終わり。じゃあな」

Aがビルから飛び降りようとする。
BがAの脚に飛びつく。
体勢を崩して内側に倒れこむAとB。
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