ローラ殺人事件
○第一景 事の始まり

暗闇の中、銃声が響く
明転
土曜日朝、神和住真子の家。
下手にドア、壁に本棚があり、びっしり本が詰まっている。
中央にソファ。
下手ドアよりあわただしく看護師樫原が入ってくる。
続いてステッキをついた神和住真子が入ってくる。

樫原「本当に良い天気ですね。絶好の退院日和でした。でも、風は毒ですね。窓、締めましょう。」
神和住「あなたの口を締めなさい、しゃべりすぎよ。病院からここまでの車の中でしゃべりっぱなしなんだから。これなら昏睡してたほうがましですよ、まったく。」
樫原「でも、素敵なお部屋ですわね。昔、お付き合いしていた方もこんな部屋にお住まいでしたわ。残念ながら、合併症で急死したんですけどね。」
神和住「それこそ幸せね。」
樫原「そうそう、お仕事、急がないでくださいよ。心臓に悪いですから。」
神和住「適度に仕事したほうが体にいいのよ。」
樫原「何を言ってるんですか?いくら敏腕刑事だからって、歳を考えてください。患者らしからぬ行動をして病院を追い出されたようなものなのですよ。」
神和住「あんなヘボ病院。入院してる間に13キロもやせたのよ。さっさと逃げ出さないと、どうなるかわかったもんじゃないわよ。」
樫原「病院をライザップのようにおっしゃって。」
神和住「うるさいわね、ライザップならいいけど、あのままなら栄養失調で、骨と皮になってしまいますよ。」
樫原「骨と皮になるまで何年かかるか。とにかく、仕事はほどほどに。まだ病人なんですから。」
神和住「酒もたばこも男もダメ。あとは仕事しかない。」

樫原、時計を見る

樫原「あら、もうこんな時間。お薬のお時間ですよ。」
神和住「私は、病床で真剣に考えましたよ。あなたを絞め殺そうとね。絞め殺して、自首したほうがましだとね。」
樫原「まぁ、そんな子供のようなことをおっしゃらずに、帰ったばかりなんですから一休みしましょう、お薬でも飲んで。」
神和住「手を離さんとステッキで殴りますよ。」

神和住は手元のステッキをとる。

樫原「そんなことをしたらタバコが折れますよ。」
神和住「タバコ?」
樫原「ステッキに隠したやつですよ。」

そういって樫原はステッキを取り、下を開けて煙草を落とす。

神和住「捜査令状もなしに・・・・。告訴しますよ。」
樫原「どうぞご勝手に。こんなことを続けるから病院を追い出されたんでしょう?」
神和住「せめて一本だけでも。」
樫原「だめです。」
神和住「薬のあとに一服くらいなら。」
樫原「そんなの、聞いたことありません。」
神和住「いつか夜中に、体温計で背中をグサッと突き刺してやる。」

刑事新畑三郎が下手よりやってくる。

新畑「神和住先輩、お元気になられて何より。」
神和住「おや、新畑君じゃないの。」
新畑「署のほうへはいつから?」
神和住「一応ボスには、ここに帰る途中挨拶してきたのよ。でも、しばらくは自宅療養だからね。」
新畑「そうですか。」
神和住「心配かけたわね。」
新畑「いえ。早速ですが、退院祝いに、今日は、おもしろい事件を持ってきましたよ。」
樫原「だめですよ。まだ退院したばかりなんですから。それにしばらくは、事件のことはお話にならないでください。」
新畑「そうですか。でもねぇ殺人事件なんですがねぇ。」
樫原「なおさらダメです。今、刺激的なことをしたら、また倒れてしまいます。」
神和住「何を言うの。あの病院の薬よりよっぽど私の体にいいんだから。」
樫原「さぁさぁお引き取りを。この方はまだしばらくお休みにならないといけないんですよ。私がつきっきりでということで、ようやく退院してきたんですから。」
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