脚本ダウンロードサービス

地下のチカマツ

地下のチカマツ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小川竜駆

※この芝居は、曽根崎心中の物語をベースにいくつかのモジュールを組み合わせて構成されており、一冊が一つの建物になぞらえてある。

登場人物

豊松一樹・平野屋徳兵衛
吉田美紀・お初
近松門左衛門・松本
メイドの飛脚Ａ・司会者
メイドの飛脚Ｂ・女将
佐藤初江
平野健
優子
和代

舞台上にはパイプが張り巡らされ、それが入り組みすぎたネットワークのようにも見える。

１　天神森

まだ客電の消えない場内に重厚な三味線の音色「ソナエ」が響き渡る。暗くなってゆく客席。　曽根崎心中道行の冒頭文が聞こえる。

　　『この世の名残り、夜も名残り。死に行く身をたとふればあだしが原の道の霜。一足づつに消えて行く夢の夢こそ哀れなれ。』

お初　　　徳さま　何ですやろ、あの向こうに光るものが見えます。
徳兵衛　　あれは、人魂や　今宵死ぬんはわしらだけや思うとった。
お初　　　先立つ人もいはる…　南無阿弥陀仏南無…
徳兵衛　　いや、二つ並んだ人魂はまさしゅうわしらのもんや。
お初　　　もう、はようにあの世に来てしもうたんやろか。
徳兵衛　　お初、怖がらんでええ。　震えとるやないか。　まだ、生きとる証拠や。
お初　　　徳さま　抱きしめてえな。
徳兵衛　　おお、お初　堪忍や　堪忍してやぁ。　

　　徳兵衛、お初を抱きしめる。

お初　　　徳さま！　

二人は美しいシルエットとなり、それを眺める近松の姿が浮かび上がってくる。手には床本（浄瑠璃の戯曲）。

近松　　　まだ、まだ描き残したことが山ほどある、このままでは逝かれへん。お初徳兵衛の死に顔見たとき、これがほんまに生きるゆうことなんかと思うた。この世にいずとも生き続けるもんもあれば、身体は生きた屍もおる。死んでも、真の恋を貫いた二人の姿をのちの世に残さねば。新しい時代の壊れてゆく音がするんや。

その瞬間、徳兵衛は一樹となりお初は美紀となる。
柝頭〜Ｍ　椎名林檎 - 神様、仏様。

花魁道中のような行列（現代人たちによる）が行われる中を制服姿の女子高生と血まみれのシャツの男子高校生が駆け抜けてゆく。

２　　〈北新地ビル・地下室〉

美紀は首吊りの縄をぶら下げ、自殺の準備をしている。そしてケータイを確認する。そこに一樹が死体を引きずりながらやってくる。美紀はとっさに隠れる。死体を物陰まで移動させ、包丁を取り出す。一樹が死体を包丁で切り刻もうとしたとき、美紀の声が漏れる。

美紀　　　ヒッ…
一樹　　　誰や…！

美紀は慌てて口を塞ぐが間もなく一樹にみつかる。

美紀　　　ご、ごめんなさい　あの
一樹　　　……
美紀　　　えっと。

1/15

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで！