木のある宿屋
2019年ver.
      「木のある宿屋」



    ■登場人物

若者

木霊

主人

少女

女1

女2




    ■幕

    〇山奥の宿屋
    東北の山奥から、更に深い山に入るとひっそりと建っている宿屋。
    宿屋と言っても、一階建ての日本家屋で部屋も四部屋程度しかない。
    その先には枯れた滝しか観ることのできない寂れた秘境。

    舞台中央に七畳半ほどの部屋。部屋の中は簡素であり、中央に食事用の机が一つ。近くに木が置かれるための台があり、その傍に古びたラジカセが一つ。
    上手側に廊下と外に出るための裏口とその直ぐそばに使い古したサンダル。廊下から舞台外に続く先は玄関と台所が存在している。
    部屋が角部屋のため、下手側には部屋から軒に続く戸がある。
    舞台正面は宿屋の裏手があり、上手側の裏口から外に出ることが出来る。風雨に晒されみすぼらしい箒が落ちている。




    ■1場「客の足音」

    風が強いようで、宿屋の扉がカタカタと鳴っている。
    部屋の木を置く台の上に木霊が立っている。まるで木そのもののように動かない。
    廊下の奥から主人が明かりを持ってやって来る。部屋に入り、中央に座ると正面をジッと見る。



主人  「山の奥の更に奥。そこに一軒の宿屋がありました。宿屋には主人が一人、そして木が一本。昔はもっと賑やかだったんですけどね。随分と風通しがよくなってしまいました。これからの季節、風通しなんてない方が良いのですけれどね」



    風の音がうっすらと聞こえる。



主人  「いやあ、それにしても。寒くなってきましたね。こう寒いとね客が来るんですよ。ええ、なぜかって? そりゃあ、寒いからですよ」



    聞こえないほど小さく、遠くで足音がする。



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