オユウギノジカン


  僕 (ぼく)


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僕   いまー、わたーしのー、ねがーいごとがー、かなーうーなーらばー、つばーさーがーほしーい。1971年、フォークグループ赤い鳥によって発表されたこの歌は、プロ作曲家コンテストにて新人奨励賞を獲得、その後も合唱曲としても有名となり、70年代後半には学校教育の場でも盛んに使用されるようになりました。すっげー! そーんな有名曲を1991年、当時花盛りだった川村カオリがカバー、なんと約28万枚のヒットを記録。以降すっかり売れっ子となった川村カオリは同年、長尾直樹監督の日本映画、東京の休日にて見事主演を務め、クランクアップ後意気揚々と打ち上げにてグラスをかちんとぶつけたその瞬間、とある病院の、とある分娩室にて、おぎゃあと、僕は誕生したのであります。


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僕   小さい頃からものを考えるのが好きでした。小さい頃からものを考えるのが好きでした。ものを考えるなんて言い方はちょっと偉そうですね。妄想。妄想が好きでした。当時僕の周りには大きく分けて二種類のモンスターがいました。デジタルなモンスターと、ポケットなモンスターです。いえタイトルまでは言いませんけど。世間的に言えば大成功を収めたのは後者で、関連ゲームの過去販売数は全国で二億八千万、これは日本の総人口のおよそ2倍です。それに対して前者は? ノンノンノン、文化は比較するものじゃありませーん。僕は俄然前者が好きですけどね! ドーン。この地鳴りはまさか…! デンデンデン…、ガオーッ!(モンスター、からの人形遊び)すげぇ、すげぇパワーだ、頑張れティラノ師匠! あぁ、俺は負けられない、これが俺の真のちか…、(母に呼ばれ)はーい! …真の力だー! メキメキメキ、ウオー…、(再び)うんわかってるってちょっと待って! …次回へ続く! 僕は人形遊びをよくしました。子供部屋の押し入れは人形でいっぱいです、なかでも特にお気に入りだったこの怪獣のゴム人形はお菓子の缶詰の中に大事に大事に片付けます。人形を手にした僕は無敵です。ビル、バターン! 山、グシャー! 地球、フゥー!(遠くへ見送る)


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僕   宇宙には、本当に宇宙人はいるのでしょうか? 僕は、いると思います。でも宇宙はぁ、広くてぇ、暗くてぇ、寒いので、きっと寂しい気持ちになります。だから僕はメッセージを送ります。(手紙を書くと風船を膨らませて飛ばす)あの風船は、僕の想像力です。宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ)は2013年、無人気球を上空53.7キロまで飛ばしています。でも僕の風船は可視宇宙の果て465億光年先を超えて全ての宇宙人と交信します。オートーネガウ、オートーネガウ、アナタハダレデスカ?


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僕   キーンコーンカーンコーン! 僕は国語が好きでした。理科や図工も好きでした。算数だって得意です。でもでも、音楽は、ちょっとめんどくさかったのを覚えています。いまー、わたーしのー、ねがーいごとがー、かなーうーなーらばー、(目配せして)おかーねーがーほしーい。わー! 自販機みっけ、自販機みっけ! 捜索部隊、行きます!(自販機の下に手を入れる)日本にはおよそ5150万台の自動販売機があると言われています。とある雑誌社の調査によると、自販機の下に落ちている小銭は一台につき平均9円つまり、日本全国を回れば、なんと4億6000万円もの大金が手に入るビッグビジネスだったのです!(小銭をつかむ)…2円。(自販機のボタンを押しまくる)おりゃー!


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僕   ただいまー。僕の家には誰もいません。両親は共働きでした、みっつ上の兄は部活動、よっつ下の弟は保育園で夕方までの時間を過ごします。必然的に僕イズフリーダムです。(人形を手に取る)前回のあらすじ、悪の化身メガドラモンによって圧倒的な力を見せつけられるティラノ師匠。しかし秘められし彼の真の力が今解き放たれる! これが俺の真の力だー! メキメキメキウオー…あ、あぁ!(パーツがとれていることに気付く)あーあ!(倒れると、勢いよく起き上がると)…ボンドあるかな。…あ、いやセロテープ。…これは、仲間を庇ったときについた、名誉の負傷。僕は過去をも塗り替えます。人形を手にした僕は無敵です。(親が帰ってくるのを聞きつけて慌てて人形を隠す)おかえりー。うん、本読んでたー。


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僕   (親の目を盗んで風船を飛ばす)…キーンコーンカーンコーン! 今の流行はサッカーです。大休憩は運動場でボールの奪い合い。くらえ俺の剃刀シュート。(ボールを蹴り損ねる)…正直僕は運動が得意ではありませんでした。でもみんなはサッカーが大好きです。帰ろーぜー。影、影踏んだら負けな、底なし沼で死ぬからな。あ、自販機みっけ、自販機みっけ!(自販機の下に手を入れる)4円。ピピー、整列! 親友諸君、ヒトゴーサンマル、秘密基地ニテ再集合セヨ、散! ただいまー行ってきまーす! 秘密基地、これを持たずして何が男の子か! 子供の拠点、青春と幼心のプルーフ証明。そんな僕らの自慢の基地はとある採掘場、崖のすぐ上にありました。高く反り立つこの崖をツタ一本で昇りきる、男気のねぇやつぁお断りでぃ! というのはあくまで設定で、本当は簡単に出入りできる横道もちゃんとありました。ツタ一本もごめんなさいちょっと誇張し過ぎましたね、割と草生えてます。傾斜もそれほどじゃなかった、普通に素手で昇れましたしね。…あれ? …そんなもんだっけ。…そんなもん。


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僕   (肩がぶつかる)…あ、ごめん。(耳を引っ張られる)…痛い痛い痛い、もー痛いってーはははー…。(舌打ち)…いや相手しても時間の無駄だからさ。ガキかっての。それより半月の続き貸してよ。ほら二人で病院抜け出すシーンとかさー…。いつの間にか、色んなことが変わっていました。まず学校が変わりました。生活範囲が変わり、友達と呼べる人間が減り…。あ、はい。お願いしまーす。(バドミントン)お疲れさまでしたー。…まじあのパイナップル人使い荒いんだけど。頭悪すぎ。それよかうち来る? ゲーム。チューチューならあるけど。…あ、そう。じゃまたー。ただいまー。(冷凍庫を開けてチューペットを取り出すと膝で割り、それを咥える)……。(人形遊びのセッティングをして)小さい頃からものを考えるのが好きでした。小さい頃からものを考えるのが好きでした。ものを考えるなんて言い方は偉そうですね。妄想。妄想が好きでした。ドーン。この地鳴りはまさか…! デンデンデンデン…、ガオーッ!(モンスター、からの人形遊び、のはずが集中できない)…宿題しよ。


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僕   僕は国語が好きでした。理科も美術も好きでした。数学だって得意です。でもでも、音楽は、やっぱりちょっとめんどくさかったのを覚えています。こどーものーときー、ゆめーみたことー、いまーもーおーなじー、ゆめーにー…。お願いしまーす。(バドミントン)うわー喉渇いたー! あっ、自販機みっけ! 自販機みっけ!(普通に買う)よし、もう一本。(バドミントン)ふぅー。…え、プロ? 無理無理。それは、だってさぁ、ほら運動音痴だし。県大会だって、厳しいでしょ。(笑って)ね、…なんでやってんだろーね。


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僕   (話しながらテレビをつける)バドミントンは中学で辞めました。正確に言えば、高校に入ってからもバドミントン部には所属してました、でもまぁ、ほとんど出ませんでしたけど。(テレビを見ながら)…あ、亡くなったんだ川村カオリ。38て、若いのにねー…、誰だっけ。…僕もいつかは死にます、死なない人間なんていません。でも、…僕が死んだところできっと、こんなふうにニュースになることはありません。歌手でもなければ、モデルでもない。芸人でも、作家でもない、ただの…。ただの…?(風船を膨らませてそれへと飛ばす)でも僕の風船は可視宇宙の果て465億光年先を超えて全ての宇宙人と交信します。(自分の身体を見下ろす)……。(慌てて頭上に手を伸ばすが、風船は遥か頭上)


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僕   小さい頃からものを考えるのが好きでした。小さい頃からものを考えるのが好きでした。ものを考えるのが好きな僕は一体何になればいいんでしょう。一体何になれるのでしょう。(誰かが言う)君はいいよねなんだか自由そうで。(僕は笑う)でもそんな自由はぁ、広くてぇ、暗くてぇ、寒いので、きっと寂しい気持ちになります。だから僕は履歴書を書きます。中学卒業、高校入学。高校卒業、大学入学。…あれ? そんなもんだっけ? …そんなもの。得意なこと、…得意なこと、小さい頃からものを考えるのが、……。…得意なこと、なし。資格、なし。自信、なし。なし。なし…。あれぇ? …なんだこれ。…お前は誰だよ。僕は、なんだ。…気付いてなかったわけじゃありません。気付かないわけがない、だって、…僕は無敵なんかじゃありませんので。いまー、わたーしのー、ねがーいごとがー、かなーうーなーらばー、つばーさーがーほしーい。


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僕   僕は、あの頃から何も変わっていません、人形を手に遊んでいたあの頃から。妄想に、取り憑かれ、妄想に取り残された、とある誰かの一人芝居。僕は、これをもう演劇とは呼びません。では、なんと名付けましょう、僕はその答えを既に知っています。ご清聴ありがとうございましたこれはただの、オユウギノジカンです。


 2016年作成
 同年12月16〜17日 La Grotteにて上演

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