町殺車地獄
町殺車地獄(まちごろしかーじごく)

作 松永恭昭謀
女1
女2

古びた駐車場。
コンクリートの隙間には雑草らしき草が生えている。

その舞台の真ん中にみかん箱を裏返して机にしたものが置かれており、茶器とお湯の入ったポットとバケツがある。

麦わら帽子や首にタオルを巻いたりといった外作業姿の女1が、スコップをもって草むしりをしながら鼻歌を歌っている。

女1 (茶摘み歌 一番)
夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘ぢやないか
あかねだすきに菅(すげ)の笠

腰が痛くなってきたのか、立ち上がり、みかん箱の所で休憩する。
そして丁寧にお茶をいれて、一口飲んで、落ち着く。

明らかに何かあった感じに服がよれよれで、疲れ切っている女2が現れる。

女2 あの。
女1 はい。
女2 ここは?
女1 ここ?
女2 ここはどこですか?
女1 難しいことをお聞きなさる。答えとして何が正しいんだろう。街、いえ、地球。いいえ、それは宇宙。
女2 すいません。先を急ぎますので。
女1 答えを間違えましたか?
女2 いえ、いいんです。
女1 すいません。ヒトと話すのは、数カ月ぶりですから。
女2 数カ月ぶり?
女1 ずっと私一人ですから。
女2 一人だけ。
女1 この町には私一人、だけ。こうやって草むしりをして、すごすのみ。
女2 そんな。
女1 どうかなされましたか?
女2 帰れなくなってしまって。
女1 帰れない。
女2 あの山の向こうの海の先からずっと歩いてきました。車ならひと時程で行ける距離を、一日かけて歩いてきたんです。町までくれば、恥を忍んで頼み込んで、誰かの車に乗せてもらえるかと思ったのですが。
女1 お疲れのようですね。よければ少しここで休んでいらっしゃい。ちょうどお茶を入れていたところですので。
女2 ありがとうございます。少し疲れていたんです。

女2、座る。
女1、再び丁寧にお茶を入れながら話す。

女2 ここでなにをされていたんですか?
女1 草むしりです。放っておくと草がどんどんと生えてきますのでね。そうするとこの駐車場もすぐに廃墟のようになってしまう。
女2 駐車場。ここは駐車場ですか。
女1 そうです。
女2 けど……車が全然ない。
女1 車はありません。けどほら、看板にも駐車場と書いてある。駐車場所を示す白線も、料金を支払う機械も、なにひとつ壊れてません。ここは確かにこの街に最初にできた駐車場なのです。車の普及とともに客足が落ちていた商店街がお客さんが車で来ることができるようにと、みながお金を出し合って作った、まさにこの街の魂というべき、伝統と歴史がつまった駐車場なのです。
女2 商店街があったんですね。
女1 遠い昔の話です。
女2 でも駐車場ならいつか車もきますね。
女1 それは……難しいでしょう。
女2 でもここは駐車場だと。
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