夢の岸辺にて
夢の岸辺にて

作:麻井 美希


登場人物

楽士
少女

歌手










0 プロローグ
暗転。暗闇の中に流れ星と風の音が響く。
舞台が徐々に明るくなる。星空のもと、舞台を二分する川と、その傍らにうずくまり震える少女が浮かび上がる。
孤独と恐怖に耐えるよう身を固くする少女。

少女     誰か・・・誰か・・・!

風が止み、少女の声に応えるように、優しいギターの音が響く。少女は顔を上げ、音の鳴る方を見上げる。
ギターの音とは別方向から、声が聞こえる。様々な想いを抱え、この後、「夢の岸辺」に訪れる人々の叫びである。

楓(声)    あぁ、もう一度あなたの声が聞きたい。
歌手(声)   何か大切なものを忘れている気がする。
男(声)    初めてだ。笑顔が見たいと思ったのは。
女(声)    せめて今だけは、何もかも忘れて一緒にいたい。
妹(声)    どうしてここにいないの。会いたい。会いたい。
姉(声)    私はここにいるわ。お願い、私の声を届けて。

人々の声にうなずく少女。
ギターの音と同じ方向から男の声が聞こえる。

楽士(声)   星の光は、魂を照らす希望の光。厚い雲が空を覆い、嵐が吹き荒れても、星は消えず雲の裏で輝く。雨の後には、星は輝きを増し、進むべき道を照らす。俺は、君と見たこの星空を忘れない。この先何があっても、君の存在は俺を導く星になり、魂を照らす光となる。必ず迎えに行く。待っていてくれ。

声に導かれるよう手を伸ばす少女。
暗転。


1 夢の岸辺にて
明転。
川のせせらぎの音の中、足音が聞こえる。
ギターを手にした男(楽士)が現れ、周囲の様子を伺いながら川岸を歩く。やがて近くの石に腰掛け、ギターを弾き始める。
楽士の演奏に引き寄せられるように対岸から少女が現れる。
静かに演奏を聴く少女。

少女     綺麗。
楽士     ・・・!(立ち上がる)
少女     ごめんなさい!邪魔をしに来たわけじゃないの。あなたの弾く曲があんまり素敵だったから、つい。・・・はじめまして。あなたは誰に会いに来たの?

楽士、話す少女の様子を凝視しているが、やがて何かを諦めたかのように再び腰掛ける。

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