A-Mi (25分)
-Walking With You-
■■■起。目覚めるあたし。
あたしはあんまり頭がいいほうじゃない。学校の勉強がそんなに大事だなんて思ってなか
ったから、テストの結果はいつも良くなくて、具体的に点数まで言わないにしても、毎回
マルよりバツのほうが多かった。でも、そんなあたしでも分かる事がある。何かが起きた
らしい。あたしが生きてた普通の生活を送れる世界が一変するだけの、何かが。

朝は起きられない。というか、起きたくない。休みの日だったら夕方まで寝る。趣味を聞
かれたら「睡眠」って胸を張れる。そんなあたしが、違和感で目覚めた。眠りながら感じ
るくらいの、とにかく、言い様のない不安に息が詰まって大きく呼吸がしたくなった。そ
して、

「…」

見た。違う、見えなかった。何度寝て起きても其処にあったあたしの生きる世界。見えた
のは、瓦礫だらけの風景。

■■■起。確かめるあたし。
あたしは体を起こした。そして手を当てて確かめる。

「…」

そう、これはベットだ。体を休める為の寝床。じゃあ、それがある場所は? あたしの部
屋。
なかった。部屋だけじゃない、家そのものがなかった。「元は家だった物」。それが瓦礫
の山を作っていた。

…戦争? みんな言ってた、もうこの国も安全じゃなくなったって。テレビもやたらそん
な番組をやってた。あたしは見てなかったけど、たくさんやってるならそういう事なんだ
ろうなって思ってた。

みんなは…? 自分が置かれた状況を把握する為にかなり時間がかかったから、その間は
自然と冷静でいられた。でも、ふと気付いてそれも終わりになった。心臓が痛い。もう後
ほんの少しで絶叫しそう不安は段々、でも確実にあたしの中で大きくなっていっていた。
早く、誰かと…。

■■■起。耐え切れないあたし。
どうにかギリギリで動悸を抑え込みながらベットから起き上がって、あたしは瓦礫の中を
彷徨った。もしかしたら瓦礫のその隙間から家族が助けを求めてくるんじゃないかって考
えながら。でも、いなかった。何処にも、何処にもいなかった。お母さんもお父さんもお
姉ちゃんも。

呟いた。いつものみんなの呼び方を。今度はもうちょっと強く。いつものみんなの呼び方
を。
叫んだ。頬が熱くなってきた。多分、あたし泣いてる。もう耐えられなかった。ひとりぼ
っちだ。孤独だ。悲しい? …悲しい。苦しい? …苦しい。悲しい。苦しい。辛い。焦
る。ダメ! 寂しい、痛い! 嫌だ! 動けない。もう立てない…。みんなは、何処…?

■■■承。理解するあたし。
何日が経っただろう。あたしは今もベットの上にいる。瓦礫の中の、ベットの上。今が夏
で良かった。冬だったらとてもじゃないけど夜を越せない。あれから、分かった事と分か
りかけている事がある。

分かった事。あたしの家族だけじゃなく、この街に人間の姿はない。走った。声が枯れる
まで叫んで、でも涙は枯れなくて。誰かを見付けようと必死になって。それで残ったの
は、ただざらついたノドの痛み。何処まで行っても誰も見付からなかった。

分かりかけている事。この国で残っている人間、それ以前に生物はあたしだけかもしれな
い…。みんなは先に避難して何処かで元気でいるはずだ。初めの数日はそう思っていた。
それが段々と「そう思い込もう」とするようになった。大破した家の残骸の所々に生活用
品が飛び出していた。どうやらなくなった物はない。
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