A-Mi (30分)
-Walking Without You-
■■■起。目覚めるあたし。
あたしはあんまり頭がいいほうじゃない。学校の勉強がそんなに大事だなんて思ってなか
ったから、テストの結果はいつも良くなくて、具体的に点数まで言わないにしても、毎回
マルよりバツのほうが多かった。でも、そんなあたしでも分かる事がある。何かが起きた
らしい。あたしが生きてた普通の生活を送れる世界が一変するだけの、何かが。

朝は起きられない。というか、起きたくない。休みの日だったら夕方まで寝る。趣味を聞
かれたら「睡眠」って胸を張れる。そんなあたしが、違和感で目覚めた。眠りながら感じ
るくらいの、とにかく、言い様のない不安に息が詰まって大きく呼吸がしたくなった。部
屋から出よう。そして、

「…」

見た。違う、見えなかった。何度寝て起きても其処にあったあたしの生きる世界。見えた
のは、瓦礫だらけの風景。「元は家だった物」。それが瓦礫の山を作っていた。周りのあ
ったはずの家も全部そう。大分見晴らしが良くなっていた。

…戦争? みんな言ってた、もうこの国も安全じゃなくなったって。テレビもやたらそん
な番組をやってた。あたしは見てなかったけど、たくさんやってるならそういう事なんだ
ろうなって思ってた。

みんなは…? 自分が置かれた状況を把握する為にかなり時間がかかったから、その間は
自然と冷静でいられた。

あたしは瓦礫の中を彷徨った。もしかしたら瓦礫のその隙間から家族が助けを求めてくる
んじゃないかって考えながら。でも、いなかった。何処にも、何処にもいなかった。お母
さんもお父さんもお姉ちゃんも。
呟いた。いつものみんなの呼び方を。今度はもうちょっと強く。いつものみんなの呼び方
を。

みんなは、何処…?

■■■承。理解するあたし。
何日が経っただろう。あたしは今もベットの上にいる。瓦礫の中の、部屋の中の、ベット
の上。今が夏で良かった。冬だったらとてもじゃないけど夜を越せない。あれから、分か
った事と分かりかけている事がある。

分かった事。あたしの家族だけじゃなく、この街に人間の姿はない。走った。誰かを見付
けようと必死になって。それで残ったのは、ただざらついたノドの痛み。何処まで行って
も誰も見付からなかった。

分かりかけている事。この国で残っている人間、それ以前に生物はあたしだけかもしれな
い…。みんなは先に避難して何処かで元気でいるはずだ。初めの数日はそう思っていた。
それが段々と「そう思い込もう」とするようになった。大破した家の残骸の所々に生活用
品が飛び出していた。どうやらなくなった物はない。

■■■承。受け入れるあたし。
それは携帯も一緒だった。圏外かと思ったけど不思議と通話可能な状態だった。まずは家
族に鳴らして、出る気配はなかった。続いて親戚、友達。出ない。そして初めてかけた警
察。これも出ない。電話自体通じなければ納得がいくのに、この状態。出る相手がいな
い。それどころか、動く物を何も見ていない。あたしの家で飼っていたネオンテトラも、
水槽は壊れずそのまま泳ぐ姿だけがない。今年になってセミの鳴き声を聴いた覚えがある
のに、今は聴こえない。あたしはあんなに刺されやすい体質なのに、蚊もいない。夜は本
当に真っ暗。暗闇が訪れるとあたしが包まれていく。もがいても足掻いても逃げられな
い。初めの内は怖くて眠れなかった。でも抵抗しようとしても体は睡眠を求めて、いつの
間にか気絶する様に眠ってしまった。昼間に寝ると、夜に目が冴えてずっと暗闇を感じて
いなければいけない。ちゃんと太陽の活動と合わせて寝る事にした。暗くなったら寝て、
明るくなったら起きる。それが、暗闇を感じる時間を減らせる唯一の方法。

でも今日はなんだか起きていたい気分だった。星が綺麗。人工的な明かりがない分、夜空
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