列車を降りて…

海月 作




列車を降りて…





〈キャスト〉

希海

正樹

バーのママ













■ 出逢い ■

   夜明けごろ。古びた扉の前。ドアには“close”の目印が。
   スカーレットと書かれた看板。斜め前にはゴミが山盛りになっている。
   スーツ姿の正樹、そのゴミに支えられるように座っている。バーの扉が開く。

ママ   (あくびをして)よっこいしょーっ!と。まったくやんなっちゃう。ゴミばっかでて。そういえば、昨日の新人さん、可愛かったわぁ…。お持ち帰りすればよかった。…でも、年下ねぇ。…おっさんで金もってるなら大歓迎だけど、…年下。ねぇ。…あたしの分まで、若いから働いてもらえばいっか。そうそう、世の中金よ、金。よっこいしょー!っと。このゴミ、金になんないかしら。

   ごみを出そうとするとき、正樹に気づく。

ママ    ちょーっと!あーやめてよもう。びっくりして心臓、目から出るとこだったわよ。いやむしろ目が出るわよ。ほんともう。やめ、やめてー。

   正樹、動かない。

ママ    ちょっと?あんた?ねぇって。(つつく)ねぇって。…起きろーこるぁぁぁぁ!!
正樹    …。(ゆっくりママを見る)
ママ    …あ、あんた…。「また」来たの…。
正樹    …。
ママ    会社は?一度帰って、あったかいお風呂にでも入んなさいよ。ほーら。少しはシャキッとなさい。
正樹    …。
ママ    …日本語、通ジマスカー?アナタイケメン。コノヘン二イルト、タベラレル。コノヘンコワイオオカミタクサンイル。オモチカエリサレル。あんだすたんど?
正樹    …。
ママ    (ため息をついて)そろそろ帰りなさい。…もう。ほら…風邪、ひかれたら困るから。(ストールをかける)早いうちに帰るのよ?…あの子はもう、ここには戻ってこないんだから。

   ママ、店の中に戻る。

正樹    …帰る場所、なんか…。

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