スズランの誘惑


男1…語り部
男2
マリウス…森で迷った男
リリィ…森の中、一人で暮らす美しい女性







(男1。日記のようなものを持っている。徐に日記を開く。)
(男が話すと同時にマリウスが銃を持って舞台袖から現れる)

男1:5月3日。僕は銃を持ち、森に入った。狩りをするためだ。最近行き慣れたと思っていた場所だったが、その油断のせいか、森の中で迷ってしまった。一度森の中に入ってしまうと、方向はわからないし、歩いても歩いても同じ景色が続くばかりで、自分が一体どこへ向かっているのかがわからなくなってしまう。しかし僕は幸運なことに、ある目印を見つけた。木の幹に白いペンキで番号が書かれていたのだ。僕は最初、不思議に思ったが、これはきっと人間の仕業だろうと考えた。この森の奥に人が住んでいるのか、はたまた過去にここを訪れた賢い者が、目印のためにつけたものなのか。どちらにせよ、人がつけた目印であることには間違いない。僕はその数字を順番に辿っていくことにした。

9の番号までくると、森の中でも少し開けた場所に出た。驚くことに、その開けた場所には、一軒家が立っていた。小さい、可愛らしい家の周りには白と緑が鮮やかなスズランの花たちが咲き誇っていた。
(白いワンピースの女性がスズランに水をあげている)
僕は、あまりにも綺麗に咲くスズランたちに気をとられ、最初、そこにいる一人の女性に気づかなかった。彼女はスズランと同じ白いワンピースに身を包み、綺麗な長い髪をなびかせて、花畑に水をあげていた。スズランに微笑みかけながらじょうろを使うその美しい仕草に、私は釘付けになってしまった。しばらくして、彼女が僕の視線に気がつき、僕に微笑みかけた。花にしているのと同じように。僕は彼女と目が合うと、自分の体の体温が上がったのがわかった。きっと顔が真っ赤になっていたことだろう。

(男1、本を閉じて退場)
リリィ:よかったらお茶でもどうですか?
マリウス:……え?僕ですか?
リリィ:こんな森の奥で、他に誰がいるんです?
マリウス:あ、そうですね……そうでした。僕ったらちょっとぼーっとしてしまって。
リリィ:ここにお客様なんて珍しい。道にでも迷われましたか?
マリウス:そんなところです。木に書かれている数字を順番に辿ってきたらここについて……まさか本当に人がいるなんて思いませんでした。
リリィ:あぁ。あれは私がつけたものです。ここでの生活が長い私でも、時々迷いそうになるくらい、深い森ですから。あなたのお役に立てたのならよかったです。……立ち話もなんですからこちらにおかけになってください。今お茶を入れてきます。
(リリィがうちの方へ立ち去ろうとする。マリウスはそれを引き止める。)
マリウス:あ、あの!!
リリィ:?
マリウス:お名前を聞いても?
リリィ:そうでしたね。すっかり名乗り忘れていました。私、リリィと申します。この森で一人で暮らしていいます。あなたは?
マリウス:僕はマリウスと言います。
リリィ:素敵なお名前ですね。さぁ、おかけになってください。人が来るなんて久しぶりなんです。ぜひ色々お話を聞かせてください。
(リリィ退場。交代で男が本を開いて出てくる)

男1:森で出会った不思議で可憐な彼女。リリィはまるで花…そう。例えるなら彼女のうちの庭先に咲くスズランのような女性だった。僕は彼女の美しさについつい見惚れてしまった。

(男1が去る。リリィがティーセットを持って戻ってくる。)

リリィ:どうしましたか?なんだかとても緊張しているみたい…
マリウス:え、あ、いや……きれいだなって……スズランの花が。
リリィ:そうでしょう。私の大好きな花なんです。真っ白で小さくて可愛くて。ここは街からとても離れていて、不便ではあるけれど、好きなものにたくさん囲まれていて、私は幸せです。
マリウス:リリィさんは、どうしてこんな森の奥に住んでいるんですか?
リリィ:私、元々街に住んでいたんです。でも、どうしても人が多い場所は苦手で。5年前に街を離れることにしました。そうしてこの森に入ったらちょうど素敵な小屋を見つけて。誰もいなかったのでここに住まわせてもらうことにしたんです。
マリウス:こんなところに女性一人で住むなんて大変じゃないですか。
リリィ:確かに食べ物も全部自分で作らなきゃいけないし、森には危険な動物もいます。大変じゃないと言えば嘘になりますが…でも、街にいた時に比べればどうってことないです。
マリウス:街でそんなに辛い思いをされたんですか?
リリィ:……
マリウス:あ、すみません。初対面なのに踏み込んだことを言ってしまって。
リリィ:いえ、お気になさらず。
マリウス:……
リリィ:ただそうですね…ずっと一人でいるものだから寂しさを感じることはあります。
マリウス:……あの。
リリィ:はい?
マリウス:僕で良ければですが、しばらくここであなたのお手伝いをさせていただけないでしょうか。
リリィ:え?
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