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暗室の空

　　当作品において、「高橋」を除く６人の役名は、それぞれ役者の名前をそのまま用いることとする。ここでは便宜上、「吾聞」「佐伯」「渡」「海野」「後藤」「松谷」という役者名、及び役名を使用する。
　　なお、各役の性別においても、役者の性別をそのまま用いることとする。ここでは便宜上、「吾聞」「佐伯」「渡」を男性、「海野」「後藤」「松谷」を女性とする。

　　役名（読み方）　　…　役者名

　　舞台上には幾つかの会議机と椅子、ホワイトボード。とある会議室。
　　会議机や椅子は壁際へと追いやられ、中央にはなにもない空間が広がっている。

　　役に特定の衣装はないが、松谷は小道具として左目に眼帯をしている。

　　客入れ、客出し時、照明は僅かに黄色を帯びている。
　　定時、暗転。

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第一章

　　高橋（たかはし）　…　渡
　　吾聞（あもん）　　…　後藤
　　佐伯（さえき）　　…　海野
　　渡　（わたり）　　…　松谷
　　後藤（ごとう）　　…　吾聞
　　松谷（まつたに）　…　佐伯

　　小さく、しかし業火の如き強い赤が舞台上を照らす。
　　じわりと浮かぶ六つの影。

吾聞　　やがて地獄へ下るとき、そこに待つ父母や、友人に私は何を持って行こう。
松谷　　多分私は懐から、青ざめ、破れた、蝶の死骸を取り出すだろう。
渡　　　そうして渡しながら言うだろう。
後藤　　一生を、子供のように、寂しく、これを追っていました、と。（※１）
高橋　　退避ぃ！

　　一同、四方へ散るとともに、強烈な爆発音。戦場。

後藤　　状況を報告しろ！
松谷　　こちらアメシスト、オーロベルディ、共に異常ありません！
佐伯　　こちらコーラル、エメラルドが損傷、破片による刺創、出血甚だしく命に危険あり！
吾聞　　アクアマリンより報告、前方１００メートル先塹壕に敵兵少数、砲台あり！
佐伯　　ラピスラズリ隊長！
後藤　　誇り高き者よ！　自由の叫びとともに進め！　突撃！

　　四人（後藤、吾聞、松谷、高橋）、舞台前方へと駆け出す。

佐伯　　エメラルド、聞こえるか？
渡　　　あぁ聞こえるよ、遠くで烏が鳴いている。然らば現へ帰らねば。
佐伯　　行ってはならん！　例えここが牛頭馬頭の鬼の棲む地獄だろうと、私はこの世をお前とともに生きたいのだ。
渡　　　コーラル、後生の願いだ、俺にとどめを刺してくれ。
佐伯　　なにを馬鹿な、
渡　　　もう何も見えないんだ。頼む、逝くならせめてお前の手で。俺を引き止める、全てのしがらみから俺を解き放ってくれ。…お願いだ。
佐伯　　……、…わかった。
渡　　　…あぁ、また逢おう。

　　佐伯、ナイフを渡の胸に、躊躇いがちに突き立てる。

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