Mrs.Gravedigger
0:雷鳴が轟き、豪雨の荒れ狂う王国の夜。
0:死者の眠る墓地にて体を濡らし、泥に汚れながら土を掘り起こす一人の女性。
ロラン:ハァッ……ハァッ……。
0:息を切らしながらも狂気的に土を掘り進めていく。
0:やがて土の中から古びた棺が現れる。
0:女性が恍惚とした表情で棺を撫でる。
ロラン:ああ……やっとお会いできました。
ロラン:お迎えに参りましたわ。あなた……。
0:棺に口づける。
0:雷鳴が轟き、光が女性の姿を映す。
エマ:(かつては国王に仕えていた占い師。)
エマ:(その目が見通すのは未来。口にする予言は幾度も国を脅威から救った。)
エマ:(あるいは命をもてあそぶ禁術をもって、国を追われた大罪人。)
エマ:(あるいは無垢の心に囚われた哀れな魔女。)
エマ:(愛を知らぬがゆえに、愛を求める。)
0:嵐の去った墓地。一つの棺が暴かれ、中身がさらされている。
エマ:(掘り起こされた棺(ひつぎ)から、こつぜんと亡骸が消えている。)
エマ:(「墓掘(はかほり)婦人」の仕業だ。)
エマ:(いたずらをした子どもたちに大人たちはこう叱る。)
エマ:(「墓掘婦人に、魂を抜かれるぞ。」)
0:子どもたちの楽しげな声。
0:一人、二人と駆けていく。
エマ:(もはやひとつのおとぎ話。)
エマ:(その存在を信じる者は、彼女と同じく無垢の心を持つ者か。)
エマ:(あるいは同じく愛を求め、さまよう者。)
0:深い森の奥にひっそりと佇む瀟洒な館。
0:周りには濃い霧が立ち込めている。
0:表のテーブルセットで一人の女性がティーカップを傾けている。
0:森の中から現れた男が女声に声をかける。
アレク:ロラン。
ロラン:なぁに?
アレク:今日は冷える。茶なら中で飲め。
ロラン:お気遣いありがとう。
ロラン:でも今日はここがいいんです。
0:頬杖をつき、嬉しそうに霧の深まる森を眺めるロラン。
アレク:何か楽しそうな顔だな。
ロラン:それはもう。お聞きになって? この木々のさざめきを。
ロラン:霧もいつもより深く立ち込めていると思いませんか?
0:じっと森の様子を眺める男。
アレク:……別にいつもと同じに見えるがな。
ロラン:ハァ、いけませんわ、アレク。
ロラン:もっと微細な変化にも敏感になって?
ロラン:乙女はそういったところにこう……キュンッとくるものですわ。
アレク:俺にその類のものを求めるな。
ロラン:まぁ、無愛想のなかに垣間見える優しさがあなたの良いところですが……。
アレク:先に入っておくぞ。
ロラン:あァ、釣れない。あなたへの愛を小一時間ほど聞かせて差し上げようと思いましたのに。
0:背を向けるアレク。
0:微笑を浮かべ、紅茶を口にするロラン。
ロラン:ふふ、客人なんていつ振りかしら。存分におもてなししませんと……。
0:風が吹き、くしゃみをするロラン。
ロラン:……早くいらっしゃってくれないとお風邪を召してしまいます。
0:後ろからアレクが声をかける。
アレク:ロラン。
ロラン:あら、戻られたのでは?
アレク:入れ。風邪を引いてからでは遅い。
0:ロランの表情がパッと晴れる。
ロラン:そう! そういうところにキュンッとくるんですの!
アレク:要領を得ないな……。
0:館に入っていく二人。
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