君との時計
登場人物
A(男)
B(女)

車輪の音が鳴っている。
Aは電車内に、Bは町中にいる。
A    車輪が、回る。ゴロゴロと、回る。そうやって、毎日移動していたはずなのに、なんでだろう。なんで今日はこんなにこの音が寂しく感じるのだろう。
B    車輪が、回る。ゴロゴロと、回る。別に電車が目の前で過ぎ去っ  ていく景色は毎日見ているはずなのに、なんでだろう。なんで今日はこんなに寂しく感じるんだろう。
A    とまってくれ、そうやって願っても止まることはないだろう。次に止まるのは、君からずいぶんと離れてしまってからだ。
B    私から時速80kmで遠ざかっていく君。さっきまで隣にいた身体が遠ざかるのって、こんなにも寂しいものなんだね。
A    君の声。笑い声からひそひそ話の耳元での声。急に耳元で出した驚いた声と、その耳鳴り。全部覚えてる。
B    君の声。私の前で大きな声で笑ってた声、びっくりしてた声。全部、全部覚えてる。
A    君の声を忘れたくなくて、いつもの癖で撮りだしたイヤホンを、そっとポケットにしまった。ほかの声を聴いたら君の声を忘れてしまいそうで。
B    君の声を忘れたくなくて、こっそり持ってきた耳栓を耳に入れた。君以外の声を聴いたら、君の声を忘れてしまいそうで。

A    信じられないくらいあっという間だった、君との時間。君と出会ったのはいつだったっけ。
B    君と出会ってから、実はそんなに経ってないんじゃないかな、半年 くらい?でも、考えてみたら半年もたってるんだ。嘘みたい。半年って君といるとこんなに短かったんだね。
A    君と過ごした、短いようで長い時間、どんな事してたか思い出してみる。
B    二人で何したっけって思ったけど、何もしないで二人でただいることが一番多かったかもしれないね。
A    ハロウィンとかクリスマスにどこかに遊びに行ったくらいで、それ以外は特に何もしなかったんだね、お互いの家に行って床に座ってただスマホを見て、たまに一緒にゲームをする。
B    でも、それが一番楽しかったのかもね。二人とも人が多い所苦手だったし。
A    そんな日常がすごく幸せだった。あぁ、でも、ハグぐらいはしておきたかったな。結局手をつないだだけじゃん。
B    ぎゅってしたかったな…なんてちょっと後悔してる。せっかく家に来てもらってたのに。
A    でも、あんなにかわいい君を傷つけちゃったらって思ったらちょっと怖かったんだ。だから、これで良かったのかもしれない。
B    そういえば、君。最初に言ってたよね。君の事、絶対に傷つけないって。そういう事だったのかな。
A    瞬きの時、瞼の裏に移った君の姿。やっぱり君は可愛かったよ。
B    ぎゅってしなかった代わりに、君は毎回会うたびに「今日もかわいいね」って言ってくれたよね。すごく嬉しかったんだ。
A    まだ消えないで。記憶の中から。僕はまだ君といたかった。
B    君との記憶、消えてほしくない。だってほら。今、こんなに輝いてるんだよ、君との記憶。
A    でも、いつか消えちゃうのかな。なんでだろう。君の事、こんなに好きだったのに。
B    なんだか、体が何かを伝えようとしてくる気がする。
A    君の事を思い出すと、胸がちょっと痛いんだ。
B    そっか、もう君とは会えないのか。寂しくなるね。
A    君と一緒に買ったキーホルダー。胸に近づけてみる。
B    気にとの思い出が詰まったいろいろな物。手を触れたら、君との思い出がたくさんで、あふれ出しちゃいそう。
A    僕が君に伝えたかった事、全部伝わってたのかな。
B    君が伝えたかった事、全部理解しようとしたつもりではいる。けど、ちょっと難しい事も何個かあったな。特に趣味の話とか。
A    まぁでも大抵はどうでもいい事だし、そもそも何を伝えたかったのか自分でもわからなかったこともある。
B    しょうもない話で大笑いできた君と過ごした日々。すごく楽しかったな。
A    君と過ごす明日はもう来ないって思うと、凄く寂しいんだ。
B    君と会えなくなるのはすごく寂しいけど、君の明日がまぶしいくらいキラキラしたものになること、祈ってるよ。
A    出会いがあれば、別れがある。よく言ったもんだよな。こんな、「出会いは別れの始まり」みたいな言い方しなくてもいいじゃないか。
B    出会いは別れの始まり、か…寂しい言葉だね。だけど、別れがあるからこそ、出会いって言うのがより輝くんじゃないかな。
A    君にこの言葉について聞いたらなんていうのかな、「別れがあるから出会いが輝くんじゃないかな?」とか言いそうだな。
B    出会いの延長線上に別れはあるのかもしれないけど、その間の距離を無限にしちゃいたいね。別れるのは寂しいもん。
A    そういえば、君。誕生日に買ってあげた腕時計、毎日してくれてたね。
B    そういえばこの腕時計、君に貰ったやつだったね。君との時間がこの時計に積み重なってるみたいに思えて、ずっとつけてたな。
A    君との思い出振り返ってたら、また会いたくなっちゃった。もう会えないのに。
B    会いたいなぁ、そうやって思っても、もう会えないんだよね。
A    なんだか不思議な気分だね、君は同じ世界にいるのに、同じ世界にいないみたい。
B    同じ世界のはずなのに、なんでこんなに遠く感じるんだろう。同じ世界ならいつだって会えるはずなのに。
A    俺の明日には、もう君はいないのか…
B    君の明日に私は入れないんだもんなぁ、寂しいね。
A    こんなに、宝石みたいに輝いてるこの思い出、本当に消えちゃうのかな。
B    一つ一つの思い出が、宝石みたいに心の奥底で光ってる。この光が消えないように、この輝きが褪せないように、何をすればいいんだろうね。
A    でも大丈夫。一つ一つの宝石二ちゃんと名前も付けたし、愛情だって持ってるし。きっと大丈夫だよ。
A    君と出会ったときから伸びてるこの時間が、もう一度交わらないかな。
B    君との時間がもう一回交わるように。交わらなくたっていい。
A、B   全部超えて、会いに行くから、待っててね。

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