東京メランコリニスタ【vol.5】
仁義
 東京、某所。
 厳格な門構えには木彫りで「鹿羽組」の文字が掲げられている。
 屋敷の廊下を忙しなく歩き回る鏑木。

鏑木:若! ……若ァ!
鏑木:いらっしゃらねぇんですか、若!

 しばらく探し回るが一向に見つからない。

鏑木:……クソッ! また居やしねぇ……。
鏑木:やっと外に出る気になったのは結構だけどよ。
鏑木:勝手が過ぎるぜ。立場ってモン、理解してくれよ……。

 小さく息をつく鏑木の元へ、女性が声をかける。

紅葉:随分と荒れてるね。
鏑木:あ……紅葉(あかね)姉さん。
鏑木:すいません、情けねぇとこ見せちまって。
紅葉:若いモンの前では見せるなよ。
紅葉:頭が揺らげば誰を信じればいいかわからなくなっちまう。
紅葉:崩れるのなんて一瞬さ。
鏑木:それ、もう一個上の頭に聞かせてやってくれませんか。
紅葉:そうしたいけどね。
紅葉:いない奴には発破のかけようもないよ。
鏑木:おっしゃる通りで……。
鏑木:全く、今度はどこに出掛けたってんだ。
鏑木:最近輪をかけて様子がおかしいんですよ。
鏑木:あのチャラチャラした音楽が消えたと思ったら、ふらっとどこかに消えてよォ……。
紅葉:例のアイドル娘かい。
鏑木:ええ。
鏑木:しかも、若……何つうか。
紅葉:?
鏑木:すげぇキラキラしてんスよ……。
鏑木:さっぱりしたツラして出ていくんです。
鏑木:あんな顔されちゃ何も言えねぇよ。
紅葉:……正直な話。
鏑木:はい。
紅葉:私にも何がどうなってるのか、さっぱりわからん。
鏑木:ですよね……。
紅葉:ただ、このままあの子を放っておくわけにもいかない。
紅葉:「鹿羽(しかばね)組」は今が正念場なんだ。
紅葉:関東を取れるか否かで今後の立ち位置が変わってくる。
紅葉:わかってるね。
鏑木:もちろんです。
紅葉:ヤクザなんてもんは最後は腕っぷしだよ。
紅葉:強さの後に仁も義もついてくる。
紅葉:あの子は十分過ぎる程のもん、持ってるんだ。
紅葉:前時代的と言われようが弱い人間に人はついてこねぇ。
鏑木:みなまで言わないでくださいよ姉さん。
鏑木:俺もあの人の強さに惚れたクチなんだ。
鏑木:痛ぇくらいにわかってます。
紅葉:そうだね。ちと野暮だったか。
紅葉:アンタには苦労かけるが根性見せな。
鏑木:はいッ!

 姿勢を正す鏑木。
 そんな中、軽薄な声が投げかけられる。

逆叉:あららァ、すいません。
逆叉:歴史の授業中でした?
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