東京メランコリニスタ【vol.8】
原罪の塔
 東京、某所。
 シャープな外観のオフィス。
 表にはローマ字で「御堂メンタルラボ」の文字。

 パステルカラーを基調とした室内。
 デスクでパソコンに向かいキーボードを打つ男の姿。
 控えめなノックの音が聞こえてくる。
 作業をしていた男が顔を上げる。

御堂:はーい、どうぞォ。
御堂:入ってきていいよー!

 ドアが開く。
 会釈をし、雪音が入室する。

雪音:失礼します。
御堂:お、おっ! 雪音(ゆきね)くんじゃーん、いらっしゃい!
雪音:こんにちは、御堂(みどう)さん。
雪音:お忙しいところすみません。
御堂:あ、全然大丈夫!
御堂:でもゴメン、この資料だけキリのいいとこまでまとめたいからさ、ちょっと待ってて。
御堂:すぐ終わるから!
雪音:あ、はい。お構いなく。
御堂:そのへんの本とかテキトーに読んでてよ。
雪音:いいんですか?
御堂:いいよいいよ! 心理学関係のライトなやつもあるし、好きでしょ?
雪音:はい。じゃ、遠慮なく……。
御堂:よっしゃ終わったァ! お待たせー!
雪音:えっ、早。
御堂:雪音くんと早く話したいからさぁ、超頑張った。

 苦笑する雪音。

雪音:全然、本読めなかったですよ。
御堂:貸してあげるよ!
御堂:好きなやつ持っていきな?
雪音:ありがとうございます。
御堂:さっ、座って座って。
御堂:久しぶりだねぇ、一ヶ月振りかな?
御堂:元気そうで安心したよ。
雪音:はい。あれから体の調子も良くて。
雪音:御堂さんのおかげです。
御堂:俺は何もしてないよ。
御堂:君が自分の心と向き合って乗り越えた結果さ。
御堂:まぁ、君はもともと強い人間だと思ってたからさ、特に心配はしてなかったけど。
雪音:はは……何言ってるんですか。
雪音:強くなんかありませんよ、俺は。
御堂:ほら、それ! それだよ!
雪音:えっ……。
御堂:ちゃんと弱さと向き合えてるだろ?
御堂:それこそが、ひるがえって本当の強さに変わるんだよ。
雪音:そう、ですかね……。
雪音:そんなこと言ってくれるの御堂さんくらいです。
御堂:あっ、ちょっと疑ってるでしょ?
御堂:「都合の良いこと言いやがって」……って。
雪音:い、いや、そんな。
御堂:はは、いいんだよ!
御堂:「心」ってのは、目には見えない。
御堂:けれど表情や言葉の端々に現れるものさ。
御堂:面白いよ、本当に。
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